第79話 可愛いと美味しいは正義
アメリアは元気よく返事をして、八等分程度の大きさに切ったハンバーガーに短めの串を刺して皿に並べる。屋台のカウンターに皿を置いて、あとはフィーネに任せた。
「じゃあフィーネ、あとはお願いしますね。私はハンバーグを焼いていきますから」
「はーい」
指示を受けたフィーネは踏み台を移動させてカウンターの前に立つ。
「どうぞ、ご自由にお取りくださーい」
これは昨夜の間に冨岡に教えられたセリフだ。試食という作戦を思いついた時に、フィーネが適役であると瞬時に思いついた。
小さな子が一生懸命配っている物を受け取らずにはいられないだろう。
悪どい? 知ったことか。可愛いはどの世界においても正義である。
試食担当のフィーネに目を合わせて「どうぞ」と言われた男は、断るわけにもいかず、動き続ける屋台に歩幅を合わせてハンバーガーの一欠片を受け取った。
「じゃあ、一つ・・・・・・食べても大丈夫なんだよな? 後で料金を請求されることはないよな?」
試食という概念が全くないわけではないが、それほど浸透していないらしく警戒する男。フィーネはそんな不安を払拭するように笑顔で答えた。
「うん、試食はタダだよ。食べてみてね」
「じゃあ、いただきます」
そう言って男はハンバーガーの匂いを嗅いで口に放り込む。周囲の人々は一様に彼の動きを見守っていた。
「おい、どんな味だ?」
「肉の匂いだけど」
男の近くにいた者たちが疑問を投げかける。
ハンバーガーを飲み込んだ男は一気に目を見開き、心臓でも鷲掴みにされたような表情を浮かべた。
「ん!」
「おい、どうした?」
「変なものでも入ってたのか?」
男を心配して声をかける人々。しかし、男が鷲掴みにされたのは心臓ではなく、胃袋と舌である。
「うんめぇ! なんだこれ。柔らかいパンと新鮮な野菜、それに加えて驚くほどジューシーで旨味の強い肉の塊! おい、お前らも食べてみろ。美味すぎるぞ」
一番最初に試食した男の反応を見た冨岡は『勝ち』を確信する。
ハンバーガーの味はアメリアとフィーネだけではなく、この世界の人々にも通用するのだ。
男の言葉に誘導された人々は徐々に集まり、試食用のハンバーガーを食べ始める。
「なんだこれ!」
「美味すぎる!」
「これをタダでもらってもいいのか?」
口々に感想を述べ始めた。そのどれも好意的な意見である。舌と胃袋、そして心を掴まれた人々は、遂に冨岡が待っていた言葉を口にし始めた。
「なぁ、これいくらで売ってるんだ」
「こんな大きさじゃ足りないよ。普通の大きさで売ってくれ」
よしきた、と冨岡は心の中でガッツポーズをし、間髪入れずに答える。
「すみません、大通りは移動のために通っただけですので、販売は大通りの外でお願いします。ちゃんとした商品の料金は一つで銅貨五枚ですよ」
銀貨一枚およそ千円程度の価値。銅貨十枚で銀貨一枚になる。つまりハンバーガーが一つで五百円くらいに設定しているということだ。
異世界料理ということを考えれば良心的な料金だろう。
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