第71話 打開策・換気扇

 そう、ここまでは屋台の性能を説明したにすぎない。

 食品を取り扱う屋台としての機能の高さ、利便性の話だ。店を出す場所の話には関係ない。

 しかし冨岡は、我に秘策ありというようなドヤ顔を浮かべて調理台の上の方に設置された換気扇を指差した。


「ふっふっふ、それではこちらをご覧ください!」

「トミオカさん、変な喋り方してる」


 商品の販売をしているかのような口調の冨岡に、素直な感想を述べるフィーネ。そんな純粋な意見を受け入れつつ、冨岡は話を続ける。


「何かを紹介するときはこういう話し方をするって相場が決まってるんだよ、フィーネちゃん」

「そうば?」

「そうさ。というわけで、この換気扇が場所という問題を解決するんですよ」


 言いながら冨岡は換気扇のスイッチを入れた。

 ウィーンという音を立てて換気扇は屋台内の空気を外に排出する。

 風の流れを肌で感じる気がするほど、強力な換気扇だ。これが冨岡が場所問題を解決するために見出した策である。


「これは?」


 アメリアは換気扇を見上げながら首を傾げた。

 電気で動くものの中でも、直接的な動きに直結するものはやはり珍しいのだろう。四枚の羽が目で追えないほどの速度で回っており、空気の流れを作り出している換気扇は彼女の視線を独占した。


「これは換気扇といって、中の空気を外に排出・・・・・・えっと、窓を開けて風を取り入れるようなものです」

「汚れた空気を入れ替える、ということでしょうか?」


 冨岡の説明に聞き返すアメリア。わかりやすく換気扇の役割を説明したのが良かったのだろう。冨岡は必要な情報を理解したアメリアに話を続ける。


「その通りです。ここで調理した時の空気を外に出すものが換気扇です」

「じゃあ、その換気扇が場所の問題を解決するのですか?」

「ふっふっふ」


 得意げに冨岡は説明を続ける。その合間にフィーネが「またトミオカさん変な笑い方してる」とコメントした。

 仕方ない。この数日、お披露目を楽しみに動いてきたのだからテンションも上がってしまう。

 

「アメリアさん、どういう時に食欲が刺激されますか?」

「食欲、ですか。お腹がすいたとき、とか?」

「そうですね、それも正解です。じゃあ、フィーネちゃんは?」


 冨岡はアメリアに続き、フィーネに問いかけた。

 するとフィーネは少し考えてから、元気よく答える。


「いい匂いがした時!」

「そう! 正解だよ、フィーネちゃん。美味しそうな匂いって食欲がそそると思いませんか?」


 言いながら冨岡はフィーネがメルルズパンを見つけた時のことを思い出していた。

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