第70話 冷蔵庫

 流石に驚いたのか、アメリアとフィーネは同時に天井を見上げる。


「明るーい」

「これも魔石なんですか?」


 アメリアはまじまじと天井に取り付けられたLED電球を眺めた。

 安心安全長持ち省エネのLED電球。この世界では魔石と見紛うほどの代物らしい。

 驚いてくれたことで得意げになった冨岡は、まるで自分が開発したかのように頷く。


「まぁ、そんな感じです!」

「こんなに魔石を使った屋台なんて他にありませんよ! 清潔感もあるし、食べ物を売るのには勿体無いくらいの設備です」

「これなら、後々にハンバーガー以外の物を作って売ることもできますし、簡単に動かすこともできます。そして目玉はこちら!」


 そう言って冨岡は調理台の隣に設置された冷蔵庫を開けた。

 

「何ですかこれ?」


 溢れ出る冷気に興味津々のアメリア。

 その隣で恐れを知らないフィーネが冷蔵庫の中に手を入れた。


「わぁ、冷たいよ。ほら、先生も手を伸ばしてみて」

「ほ、本当ですか。じゃあ・・・・・・」


 アメリアはフィーネに促されて恐る恐る手を伸ばす。指先に触れた冷気は氷の表面のように一気に温度を奪っていった。

 

「本当ですね、冷たいです。中から冷気が溢れているような、氷を閉じ込めているような感じです。これはどのように使うんですか?」

「これは冷蔵庫です」

「れいぞうこ?」

「はい。ここに食材を入れておくと腐りにくくなるんですよ。肉とか魚とか」


 冷蔵庫の使用方法について冨岡が説明するとアメリアは何かに気付いたかのように息を呑む。


「じゃあ、肉や魚を塩漬けにしなくても保管できるってことですか?」

「ええ、新鮮なまま味を変えずに置いておけますよ。もちろんずっとではないですけど」

「すごい! これがあれば暑い日も腐らないんですね。わぁ、そんな魔石があるなんて。これが普及すれば色んな人が助かりますね」


 魔法じゃなくて科学ですけどね、と思いながら冨岡は微笑んだ。


「屋台で食材を持ち運ぶのには不可欠ですよね。安心して食べてもらいたいですから」


 IHクッキングヒーター、オーブン、冷蔵庫、LED電球、ステンレスの調理台。様々な設備を説明したが、まだ太陽光パネルや蓄電設備については話していない。理解してもらうためには科学や電気の概念から説明しなければならないだろう。

 おそらく全ては『魔石』と言えば何とかなるだろう、とは思いつつも積極的に嘘をつくことに抵抗を覚え、話さないという選択をしたのだ。

 屋台を確認し終えたアメリアは驚きつつも最初の問題に戻る。


「とてもすごい屋台なのですが、どうしても場所が必要になるような気が・・・・・・」

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