第66話 色重ね濃く

「え、あ、ううっ・・・・・・」

「先生、顔が真っ赤だよ?」


 恥ずかしがりながらパンくずを取るアメリアに気づきフィーネが首を傾げる。幼く素直な疑問がさらにアメリアを辱めた。

 冨岡視点のアメリアは恥じらいを露わにしていて、可愛らしくもあり色っぽくも見える。

 思わず鼻の奥で笑ってしまうと、アメリアが頬を膨らまして不満を表現した。


「もう、トミオカさんまで」

「すみません、馬鹿にしたつもりはないんです。ただ、可愛いなって」

「かわ、か、可愛い、だなんて」


 冨岡の言葉を聞いたアメリアの顔色は濃く鮮やかになる。


「先生、また赤くなったね」


 フィーネが再び疑問を言葉にするとアメリアは勢いよく両手で顔を覆った。

 勢い余り、鼻を叩いてしまったのか小さく「痛い」と漏らして顔を隠す。


「見ないでください!」


 そんな動作さえ可愛い、と冨岡は微笑んだ。唇の端から薄く漏れた空気を聞き取ったのかアメリアは指の間から冨岡に視線を送る。


「また笑いましたね?」

「いえ? 全然? ふふっ」

「ほら! 今、笑いました」

「気のせいですよ?」


 そんな取り留めない会話も楽しいと感じられるこの時間が、愛おしいと思ってしまった。その気持ちが彼女に向いているとはまだ冨岡自身も気づいていない。

 冨岡が否定するように首を横に振る。

 そこでようやく恥じらいから解き放たれたアメリアが冷静になり、冨岡のアイデアを振り返った。


「あ、そういえば、屋台に車輪がついている車で販売するんですよね? 骨組みが屋台なのであれば結局、場所が必要になりませんか?」


 アメリアの言うことはもっともである。屋台単体、車輪単体であればアメリアにも想像できるものだ。頭の中で組み合わせるのは容易い。

 しかし、冨岡の想像力も『結局場所問題』へ届いていた。その上で解決策を見出している。


「確かに小さな屋台分の場所が必要になるんですけど、大丈夫です。土地の権利を侵さないで侵入できるものがありますから」


 あえて内容をぼかして説明する冨岡。そこにはアメリアを驚かせたいという思惑があった。

 驚かせたい、喜ばせたい、彼女が感情を露わにする瞬間を見たいのだろう。相手の感情を引き出す行為とは本来、愛情表現なのかもしれない。


「権利を侵さず侵入できるもの、ですか」


 不思議そうに顎に触れるアメリアに微笑みかけながら、冨岡が言う。


「準備が整ったら説明しますね」


 冨岡は頭の中で準備にどれくらいかかるだろうか、と試算していた。

 早くアメリアを驚かせたい。彼女の笑顔が見たい。冨岡は食事を進めながら、不思議そうにするアメリアに「準備が整えばわかりますよ」と答える。

 準備が整うその日を思いながら。

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