第40話 美しすぎる大天使ゴット女神様

 富岡にとってあまりにも現実離れした一日。

 謎の鏡を見つけたかと思えば妙な場所へと繋がっており、そこは魔法の存在する異世界だった。文明は中世ヨーロッパ程度だろう。

 そしてアメリアという二十歳ほどの美しい女性と出会った。源次郎の遺言『困っている人を助けられる人間であってくれ』という言葉もあり、運命だと感じた冨岡は彼女を救いたいと願う。

 救うために必要な要素は三つ。借金の返済、安定した収入、彼女が育てているフィーネという幼女が学ぶ場所だ。

 幸運なことに富岡にはそれを叶えるだけの財力と現代日本で学んできた知識がある。

 

「俺はアメリアさんを救いたい。これでいいのかな、爺ちゃん」


 冨岡は虹の橋を渡った源次郎に語りかけた。答えなど返ってこないとわかっているが、誰かに自分の行動が間違っていないと背中を押してもらいたかったのである。

 そう、答えなど返ってくるはずがない。普通ならば。


「失礼ね、私は爺ちゃんじゃないわよ。トミオカ ヒロヤさん」


 突然、冨岡の頭の中に色っぽい女性の声が響いた。


「え?」


 返ってくるはずのない独り言に聞き覚えのない声で答える誰かに驚いた冨岡は勢いよく周囲を見渡す。

 しかし、誰もいるはずはない。人の気配は感じないし、何より声は頭の中に直接響いていた。


「だ、誰もいない・・・・・・気のせいか?」

「気のせいなわけないじゃない。ここまで明瞭に聞こえる美声を疑うなんてどうかしてるわよぉ」


 再び女性の声が冨岡の頭の中に響く。

 気のせいではないと確信した冨岡は無意識のうちに顔を天井に向けて声の主に話しかけた。


「誰かいるのか。これも魔法?」

「誰って言われても、私に名前なんてないわよ。だって神様ですもの」


 神と名乗るその声は神とは思えないほど軽い口調で答える。

 あまりに軽薄な話し方だったので冨岡も思わず警戒心を失い、肩透かしを食らったように戸惑って話を続けた。


「えっと・・・・・・神? 神ってゴット? ゴットなんですか?」

「ええ、ゴットよ」


 言い切る神もといゴット。


「いや、あんまり神様が自分のことゴットって言わないと思うんですが」

「だってゴットだもの。物々しい呼び方をしたいならば美しすぎる大天使ゴット女神様と呼んでもいいわよ」

「いや、姿が見えないので美しさは分かりませんし、大天使って神から降格してませんか? というかゴットと女神ってなんか意味が重複してますし」

「うるさいわね、細かいことはいいのよ。トミオカさんが困っているからわざわざ説明しに来てあげたっていうのに」


 唇を尖らせたような声で美しすぎる大天使ゴット女神様は答える。

 突然現れた女神様(仮)に戸惑いながらも冨岡は話を続けた。


「説明って一体・・・・・・もしかして俺がこの世界に迷い込んだ理由の説明ですか?」

「まぁ、そんなとこよ。心して聞いて頂戴ね、あなたがこの世界に迷い込んだのは・・・・・・事故よ」

「・・・・・・事故?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る