第39話 また明日

「学園?」


 突然の宣言に戸惑いながらも聞き返すアメリア。

 借金の話、収入の話、そしてフィーネが学習する場所の話。一気に進む話の中、アメリアはついていくのがやっとのようである。

 しかし、冨岡にとってこの話が最重要だ。ここが決定すればより多くの人を助けることができるようになる。

 源次郎が残した願いを叶えられるようになるのだ。

 冨岡はまだ理解しきれていないアメリアに詳しい説明を始める。


「はい、学園です。身寄りのない子供たちを引き取るだけではなく、その子たちが生きていけるように学べる場所を作りたい。そうしてアメリアさんの優しさを継承していくんです。夢のある話だと思いませんか?」

「それは確かに夢のある話ですが、文字通り夢のような話ですよ。こうして孤児院を経営している中で私はそれがどれほど難しい話なのかを知りました。いくらトミオカさんといえども・・・・・・」

「ええ、俺一人なら無理かもしれません。雲を掴むような話です。でもアメリアさんがいる。アメリアさんと二人なら叶えられる夢だと俺は信じてます。もちろん、その前にある程度のお金が必要ですからあくまで最終目標ですよ。しばらくは商売に集中しましょう」


 冨岡はそう言って話を締め括った。

 まずはアメリアの抱える借金の返済と安定した収入を得るための商売。そしてその先にある夢が『学園作り』だ。

 自らの夢を話しながら冨岡は胸躍るような気持ちを感じる。彼は源次郎から受け継がれてきた優しさの行き先を見つけたのだ。

 冨岡はそれが源次郎への恩返しだと信じている。

 ここから先の話が終わると冨岡は途端に眠くなり思わずあくびが出てしまった。

 冨岡のあくびと同時にアメリアも口元を押さえる。どうやらあくびを飲み込んだらしい。

 富岡にとっては異世界転移という驚きの多い日であり、アメリアにとっても仕事の後に訪れた冨岡との出会い。お互いに疲れていても不思議ではないだろう。


「ははっ、眠くなっちゃいましたね」

「ふふっ、そうですね。不思議な日でしたし、トミオカさんといるとなんだか落ち着いてしまって」


 同時に眠くなったことで可笑しくなり二人は笑い合った。

 その後、明日に備え眠ろうという話になりアメリアは空いている部屋に冨岡を案内する。そこはベッドと小さな机があるだけの質素な部屋だった。おそらくこの孤児院で働いていた元職員の部屋なのだろう。

 全ての家具は古いながらも丁寧に掃除されてあり、アメリアが必死に維持し続けていることが窺えた。


「この部屋を使ってください。私が仕事に行く前にお声かけしますね」


 アメリアはそう言って部屋の前で微笑む。

 その笑みに釣られ冨岡も微笑みながら頷いた。


「ありがとうございます。それじゃあ、また明日」

「はい、また明日。おやすみなさい」


 そう言ってアメリアは自分の部屋へと向かう。自分の部屋と言ってもアメリアの部屋は廊下を挟んだ向かい側だ。部屋が違うとはいえ同じ屋根の下でアメリアのように美しい女性が眠っていることにドキドキしながら冨岡はベッドに座り込む。


「はぁ、すごい日だったな」


 一人になった冨岡はそう呟いた。

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