第26話 チョコレートな言葉
何気なく言葉にした冨岡の本音。その優しい言葉と表情にアメリアは不意を突かれ、何だが恥ずかしくなった。理由はわからないものの心がむず痒くなり頬が赤くなる。
「な、何言ってるんですか。私は人に支えられてここまで生きてくることができたんです。だから、自分も誰かを支えたいだけですよ」
「簡単に言いますがそれは簡単なことではありませんよ。当然のようにそう言えるアメリアさんは素敵です」
「す、素敵だなんてそんな。トミオカさんこそ、こうして私たちにお恵みを・・・・・・こんなに嬉しそうなフィーネを見たのは久しぶりです」
照れ隠しのように話の中心をフィーネに移すアメリア。するとフィーネはアメリアの表情を見て素直な言葉を吐き出す。
「どうしたの、先生。顔が真っ赤だよ?」
「何でもありませんよ。窓から夕陽が入ってきていますから、そのせいでしょう」
「うーん、そっか」
誤魔化すアメリアの言葉を受け入れ、フィーネは野菜スープを飲み干した。元々冨岡は半分くらいなら飲めるだろうと思って提案している。完飲するのは嬉しい誤算だった。
「美味しかったかい、フィーネちゃん」
冨岡が問いかけるとフィーネは満足そうに頷く。
「うん! これならいくらでも食べられる。毎日食べたい! トミオカさんにはずっとここにいてほしいな」
そうフィーネが呟くとアメリアは少し悲しそうな表情を浮かべてから優しく話しかけた。
「無理を言うものではありませんよ、フィーネ。トミオカさんにはトミオカさんの生活がありますから。この食事に感謝こそすれど、さらに求めるのはあまりに強欲です」
「・・・・・・うん、ごめんなさい」
明らかに悲しむフィーネと自分で言いながらも残念そうなアメリア。それほどまでに冨岡が持ち込んだ食べ物は魅力的だったらしい。だが、それだけではなく冨岡の穏やかな性格と誰かの役に立ちたいという思いが伝わり、アメリアとフィーネに安心感を与えていた。
また、冨岡自身もこの二人を支えることが源次郎の望みに思えて仕方ない。困っている人を助けられる人間であれと伝えられた直後に出会った二人。運命だと思うのは当然かもしれない。
「アメリアさんとフィーネちゃんがいいのなら、このままここでお役に立たせてもらえませんか?」
突然そう提案されたアメリアは戸惑いを隠せず声を漏らす。
「うぇ!? どうして、そんな。嬉しい御言葉ですがトミオカさんには何のメリットもないはずじゃないですか」
「さっきも言いましたが俺は血の繋がらない祖父に育てられました。祖父は損得など考えず俺を育ててくれたんです。そんな俺が損得を考え、目の前で困っている人を見捨てるなんてことしたらぶん殴られちゃいますよ。それに伝わっていなかったようですが俺はこの孤児院の立て直しまでお付き合いするつもりでアメリアさんを守らせてほしいと言ったんです。もう言質は取りましたから撤回不能ですよ?」
自分の気持ちを伝え終わると冨岡は優しく微笑んでリュックの中からチョコレートを取り出し、包装紙を剥いた。
甘い匂いが一気に広がり、部屋中の空気まで甘くなってしまう。いや、チョコレートのせいだけではない。その証拠に夕陽以上にアメリアの頬が真っ赤になり目が潤んでいた。
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