第25話 神様みたい
それから何とか驚きを隠した冨岡の指示で野菜スープの包装に書いてある説明書き通りの時間を待つと非常食セット野菜スープの完成だ。
待っている間にアメリアは木製の器とスプーンを用意し、完成すると即座にスープを器に移す。
透き通った琥珀色の液体と柔らかくなるまで煮込まれた数種類の野菜がアメリアとフィーネの視線を奪った。さらに奥深い香りが二人の鼻腔を刺激する。
「な、何ですか、これ。本当に野菜スープなのでしょうか?」
自分の想像していた野菜スープと違いすぎたのか、戸惑いを隠せないアメリア。その隣でフィーネは目を輝かせている。
「これ、いい匂い!」
二人の想像していた野菜スープとの違いを知ってもらえた冨岡は得意げな笑みで説明し始めた。
「先ほども言った通り、これはコンソメスープをベースに作られたものです。お肉と野菜の旨味を引き出し、余分な油やアクを取り除いた贅沢なスープなんですよ」
それを聞いたフィーネが野菜スープを眺めながら可愛らしく首を傾げる。
「お肉? でも野菜しか入ってないよ?」
「そりゃそうだよ。お肉は煮込んだ後取り出すんだ。野菜だってスープが完成してから具材として新しいものを入れるんだよ」
「お肉を取り出しちゃうの!? 絶対食べた方が美味しいのに」
残念そうに驚くフィーネ。そんな様子に冨岡の表情は緩むばかりだ。
「ははっ、食べてみればわかるよ。スープからお肉の旨味を感じると思う。全て溶け込んだスープなんだよ」
そう言われたフィーネは恐る恐るスプーンを握り、野菜スープを掬う。どう見てもただの液体だ。しかし、そこから驚くほど濃い香りが立ち上っている。
「ほんとにいい匂い。お肉の匂いもするね!」
言いながらフィーネはスプーンを口に近づけ、一気に飲み干した。
舌の上でコンソメスープが広がり、旨味と香りが爆弾のようにフィーネを刺激する。
「ん!」
目を見開き、何かを訴えようとするフィーネの表情。何があったのかとアメリアが心配から問いかけた。
「どうしたんですか、フィーネ。やっぱり苦手だった?」
「んーん!」
「んーん?」
「美味しいの!」
フィーネはそう答えて満面の笑みを浮かべる。自分の知らなかった味と美味しさを知り、感動と感情が溢れたのだ。
フィーネがここまで旨味を感じたのには質素な食事を続けてきたことも幸いしている。味の薄い食事やシンプルな料理を食べてきたおかげで小さな旨味も逃さない。
喜んで二口目を味わうフィーネの姿を見たアメリアは驚きを隠せなかった。
「まさかフィーネが野菜スープで喜ぶなんて・・・・・・トミオカさん、あなたは一体・・・・・・いえ、私が知らないことなんてこの世界にはたくさんありますよね」
何かを納得するアメリア。冨岡が言葉の意味を考えていると野菜スープをほとんど飲み干したフィーネが言葉を挟む。
「トミオカさんは神様みたいだね! こんなに美味しいものをくれるなんて」
「俺が神様? ははっ、そうだとしたらフィーネちゃんがこれまでいい子にして頑張ってきたご褒美なんだろうね。もちろんアメリアさんも」
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