第23話 食卓の温かさ

 アメリアが用意したグラスにミネラルウォーターを注ぐとフィーネに手渡した。

 そのままフィーネはミネラルウォーターを飲むと不思議そうな表情で首を傾げる。


「あれ、トミオカさんは水を出せないの?」


 水を出すという言葉に違和感を覚え、冨岡も首を傾げた。


「水を出す? どういうこと?」


 冨岡が問いかけるとフィーネはグラスの水を飲み干してから飲み口に小さな手をかざす。

 何をするんだろうと眺めているとフィーネの手が淡い青色の光に包まれた。


「水よ」


 何かに呼びかけるようフィーネが唱えると手のひらから透き通った水が出現し空だったグラスを満たす。


「え、水が・・・・・・もしかしてフィーネちゃんの魔法?」


 信じられないといった表情で冨岡が問いかけるとフィーネは嬉しそうに頷いた。


「うん!」


 こんなに小さな子まで魔法を使えるのか、と驚く冨岡。するとアメリアが首を傾げながら説明する。


「初級の水魔法ならこの年齢でも使えますよ。水は生活に欠かせないですからね。ほとんどの子が最初に覚える魔法です」


 それを聞いた冨岡はアメリアが首を傾げている理由を察した。この世界では当たり前のように魔法があり、それは生活の一部になっている。魔法を使えない方がおかしいということだ。

 この世界の当然を理解した冨岡は自分が魔法を知らない説明を考えるが思い浮かばない。


「あー、そっか。そうですね」


 そう言って誤魔化そうとする冨岡に対してアメリアが言葉を付け足す。


「もしかしてトミオカさんの故郷では魔法を使わないんですか? 水や食料が豊富な国だと水魔法を使わないと聞いたことがあります。初級の水魔法でも魔力を消費しますからね」


 彼女の言葉は水魔法を知らない冨岡にとっては救いだった。そういうことにしておけば自分が異世界人だと知られずに乗り切ることができる。


「あ、そうなんです。水ならいくらでもあったので水魔法は使ってこなかったんですよね」

「そっか、裕福な国だったんですね」


 冨岡とアメリアがそんな会話をしているとフィーネがそっとチョコレートに手を伸ばした。

 それに気づきアメリアがフィーネを嗜める。


「フィーネ、ちゃんとトミオカさんに聞いてから食べるんですよ。勝手に取るのは感心しません」

「う、ごめんなさい。トミオカさん、これをもらってもいいですか?」


 フィーネは上目遣いで冨岡に問いかけた。

 可愛らしい視線に冨岡は頷くだけの機械になってしまう。


「うんうん、いいよいいよ。あ、でもそれはお菓子なんだ。ちゃんとご飯を食べてからじゃないと良くないかもしれないな。まだおにぎり一個しか食べてないし、もう少し食べてからにしないかい?」


 冨岡にそう言われたフィーネは少し考えてからアメリアの顔を覗き込んだ。自分がどうすればいいのか分からず自然で問いかけているのだろう。

 視線に気づいたアメリアは優しく微笑んでから冨岡に問いかけた。


「どうやらフィーネはもう一つおにぎりを食べてしまうとお腹いっぱいで何も食べられなくなるようです。けれどどうしてもそのお菓子を食べたいらしく・・・・・・何かおにぎりよりも軽いものはありますか?」

「おにぎりよりも軽いもの・・・・・・じゃあ、これなんかいいかもしれません」

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