第15話 アメリアの事情

 冨岡に涙を拭われたアメリアは彼の優しさに触れ、さらに涙を流した。


「すみません、すみません。困りますよね、いきなり泣き出すなんて」

「大丈夫ですよ。落ち着いて深呼吸してください。俺でよければ話を聞きますよ」

「いえ、私だけこんなものを食べていいのかと・・・・・・」


 言いながらプチワイバーンの串焼きに視線を送るアメリア。その瞳は憂いに満ちている。

 空腹状態だというのに自分だけ食べてもいいのかと憂う彼女にはどのような事情があるのだろうか。冨岡はそう考え、アメリアに優しく微笑みかける。


「とにかく食べてください。落ち着いてからでいいので俺に話してみてくれませんか。何か力になれることがあるかもしれません」


 冨岡は話ながらプチワイバーンの串焼きを食べ進めた。その言葉を受け止めたアメリアは同じように串焼きを頬張る。

 よほど空腹だったのか、アメリアは夢中になって食べ進めた。

 冨岡と同じタイミングで食べ終わるとアメリアは我にかえり少し申しわけなさそうに、照れ臭そうに俯く。

 そんなアメリアに冨岡が優しく話しかけた。


「美味しかったですね。少し落ち着きましたか?」

「はい、ごめんなさい。取り乱してしまって・・・・・・ご迷惑をおかけしました」


 謝るアメリア。しかし冨岡は首を横に振る。


「謝らないでください。迷惑だなんて思ってませんよ」

「ありがとうございます。本当に優しいんですね、トミオカさん」

「優しくなんて・・・・・・ただアメリアさんが困っているのならできることをしたいと思ってるんです」


 言いながら冨岡は祖父、源次郎の『困っている人を助けられる人間であってくれ』という言葉を思い出していた。

 そして今、目の前のアメリアが困っている。

 冨岡の心には『助けたい』という感情がはっきりと芽生えていた。

 そんな冨岡の言葉を聞いたアメリアは少し戸惑ってから口を開く。


「・・・・・・本当に優しい。でも話したところでトミオカさんを困らせるだけかもしれません」

「俺は困りませんよ。何もできないかもしれないけれど、困ることなんてありません」


 そう言い放つ冨岡の言葉には優しさと強さが感じられた。

 アメリアはその言葉を受け、自分の抱える事情を話し始める。


「・・・・・・私はこの街で孤児院を運営しています。孤児院と言っても小さな教会で私が一人の子を何とか養っている状態ですが・・・・・・」

「アメリアさん一人で・・・・・・どこかの組織に属しているんですか?」

「いえ、元々は『白の創世』という宗教団体が運営する教会でした。しかし、『白の創世』は他国で起きた大きな事件をきっかけに崩壊し、今では全く機能していません。それでも孤児院を無くせば子どもたちが路頭に迷ってしまいます。ですから何とか維持してきたのですが、徐々に職員たちは辞めていき遂には私一人になってしまいました。子どもたちも他の孤児院に移っていき、今では一人に・・・・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る