第14話 涙のワケ

 一瞬で消えた自分の傷。

 しかし、何が起こったのか冨岡には推測することが可能である。

 先ほどの男が口にしていた『魔法』という言葉。そして冨岡の知る常識ではあり得ない現象。


「まさか、魔法?」


 推測できるものの半信半疑というような表情で冨岡がアメリアに聞いた。

 するとアメリアは当たり前だと言わんばかりに頷く。


「はい。と言っても私に使えるのは簡単な回復魔法だけなんですけどね。攻撃に使えそうな魔法や大きな怪我を治すなんてことはできません」

「いや、十分すごいじゃないですか! だって魔法ですよ、魔法!」


 子どものように目を輝かせ感動する冨岡。そんな冨岡の純粋さにアメリアはつい頬が緩む。


「ふふっ、おかしな人ですね。魔法なんてほとんどの人が使えますよ」

「魔法をほとんどの人が? もしかして魔法は生活の一部に・・・・・・異世界すごっ」

「イセカイ?」

「いえ、何でもありません」


 そう冨岡が誤魔化すとアメリアは再び笑った。どうやらその瞬間、気を抜いたらしく彼女は腹部からグーという低音を鳴らす。

 彼女の体が空腹を知らせる警鐘音だった。


「あ、す、すみません!」


 そう言いながらアメリアは慌てて腹部を押さえる。恥ずかしさから耳まで真っ赤に染めていた。

 彼女の空腹を察した冨岡は左手に持っていたプチワイバーンの串焼きを差し出す。


「これ、よかったらどうぞ」

「え?」


 冨岡は聞き返すアメリアに半ば押し付けるよう串焼き一本を手渡した。


「二本あるんです。どうせなら一緒に食べたほうが美味しいですよ」


 その言葉からアメリアは串焼きを受け取らざるを得ないと判断し、軽く頭を下げる。


「あの、ありがとうございます。実はしばらく何も食べていなくて・・・・・・」

「しばらく何も? 一体どうして」


 アメリアの事情を聞いた冨岡はそう問いかけるが、その途中で先ほどの男たちのとの会話を思い出した。

 その会話から『アメリアは借金を負いながらも孤児院を守ろうとしている』と推測できる。

 それが真実であればしばらく何も食べていないのも納得だ。深掘りするのは失礼だろうかと冨岡は躊躇する。

 言葉を飲み込むように冨岡はプチワイバーンの串焼きに齧り付いた。

 口の中に肉汁と塩味が広がり、口の中でワイバーンのように旨味が暴れる。


「うわっ、めちゃくちゃ美味しいですよ、これ。ほら、アメリアさんもどうぞ」

「あ、はい。それじゃあいただきます」


 勧められたアメリアは冨岡と同じようにプチワイバーンに齧り付き、満足そうな笑顔を浮かべた。


「美味しい。本当に美味しいです・・・・・・」


 そう言いながらアメリアは小さな涙を流す。彼女が何を思い泣いているのかはわからない。

 しかし冨岡は涙を見逃さず、ポケットからハンカチを取り出しアメリアの涙を拭う。


「もう十分な塩味がついています。これ以上足すと塩辛くなってしまいますよ」

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