第10話 運命の出会い
そう言って串焼きを二本手渡してくる店主。
あまり多くもらっても食べきれない、と冨岡は二本だけ受け取った。
最後にチョコレートは熱に弱いので冷やしておいてくださいと伝え、冨岡は屋台の前を立ち去ろうとする。
店主は最後にこう名乗った。
「ああ、兄ちゃん。俺の名前はクルガーってんだ。まだこの街にいるのならいつでも来てくれ。物々交換も歓迎するぜ」
「えっと、俺は冨岡です。じゃあ、また来ますね」
自らも名乗ってから冨岡は微笑んでから立ち去る。
冨岡は両手に大きめのプチワイバーンの串焼きを持ち、落ち着いて食べられそうな場所を探した。
結局、最初にいた路地裏が一番落ち着けるのではないかと考え、鏡の前に向かう。
冨岡が大通りから路地裏に入ろうとすると、不穏な声が聞こえてきた。
「やめてください!」
怯えながらも抵抗しようとする女性の声である。
何事かと思い冨岡が路地裏を覗くと、白いワンピースを着た二十歳ほどの女性がガラの悪そうな男二人に迫られていた。
創作物ではありきたりすぎる状況だが、実際に目の前で行われていると想像以上に深刻な事態である。
冨岡がどういう状況なんだと思いながら立ち尽くしていると迫っている男の一人が事情を説明するかのように語り出した。
「だからよぉ、言ってんだろ? ジルホーク様と結婚すりゃあ借金はチャラになる。アンタが守りたい孤児院だって存続できるだろ。悪い話じゃあねぇはずだぜ」
その言葉を聞いていた冨岡は即座にある程度の状況を推測する。
借金という女性の弱みにつけ込み無理やり求婚しているのではないか、と考えた冨岡は路地裏に足を踏み入れる前に静かにリュックを下ろした。串焼きはをまとめて左手で持つと器用にリュックを開け、中から護身用にと購入していたスタンガンを取り出す。
冨岡が準備をしている間に女性は男たちにこう言い返していた。
「困ります! 結婚なんて・・・・・・借金は必ず払いますから!」
「毎回そう言ってるけどさぁ、結局返せてないからこうなってるんだろ? つーか、貴族であるジルホーク様を結婚すりゃあ幸せな生活を送れるぜ。親の居ないガキの面倒なんか見たってしょうがないだろ」
男は不愉快になる程のにやけ顔でそう言い放つ。
血の繋がっていない祖父、源次郎に育てられた自分の境遇と重なり冨岡は憤りを感じていた。
同じように女性も怒ったように口を開く。
「なんて酷いことを・・・・・・好きで孤児になる子なんていません。誰にだって幸せになる権利があるはずです。私は自分の幸せのために何かを見捨てるようなことはしたくない! 私の幸せをあなたが決めないでください!」
言い返された男は分かりやすく眉間に皺を寄せ、女性を睨みつけた。
「この女・・・・・・黙って言うことを聞いてりゃ良いものを。ジルホーク様からは生きて連れてこいとしか言われてねぇ。服で見えねぇところなら殴れるんだぜ?」
さらに隣にいたもう一人の男も賛同する。
「ああ。それどころか屈服させておいた方がジルホーク様の手間が省けるし、お喜びになるだろうぜ」
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