第9話 チョコレートの価値は
店主に問いかけられ冨岡は戸惑った。確かにプチワイバーンの串焼きというものは気になるが、まだこちらの世界の通貨を持っていない。買おうと思っても買えない状況だった。
そこで冨岡はこう誤魔化す。
「えっと、まだこの国のお金を持っていなくて」
「何言ってんだ? ほとんどのが国がどこも同じように銅貨、銀貨、金貨を使ってるだろう。それぞれ特殊な通貨はあるだろうけどな。それとも金を使わねぇようなど田舎の村から出てきたってのか?」
「あー、まぁ、そんな感じです」
店主の言葉から世界中で共通の通貨を使用していると理解した冨岡は咄嗟にそう返した。
すると店主は茶化すように言葉を続ける。
「確かに街から離れた村じゃあ金なんて何の役にも立たないだろうしな。もしかして物々交換で生活してんのかい?」
冨岡はせっかく店主がそう思ってくれているなら乗っかろうと考え、話を合わせた。
「ええ、村では物々交換が基本でした。ですので串焼きを購入することはできないんです」
そう言って冨岡が立ち去ろうとすると店主は呼び止めるように声を掛ける。
「まぁ、待てよ兄ちゃん。せっかく興味を持ってくれたんだ、物々交換でもいいぜ」
「え?」
「そんな大きい布袋を背負ってるんだ。何か持ってるんだろ? 行商人じゃないのかい?」
言いながら店主は冨岡のリュックを指差した。なるほど、確かに行商人に見えなくもないな、と冨岡が思っているとさらに店主は話を続ける。
「見たことない珍しい服装だし、面白いものでも持ってれば串焼きと交換するぜ」
店主の言葉を聞いた冨岡は自分の服装を確認した。無地のパーカーと薄手のジャケットにデニムパンツ。至って普通の服装だが、周囲と見比べれば違いは歴然である。
明らかに冨岡だけ浮いていた。
この世界を探索するのならば目立たない服装が必要だな、と理解する冨岡。
ここまでの情報だけでもかなり異世界について知ることができた。その礼を兼ねて冨岡は物々交換に応じる。
「わかりました。えっとじゃあ、簡単に火を起こすことができる物とかどうですか?」
冨岡が提案したのは五千円のオイルライター。しかし店主は怪訝そうにこう返す。
「何言ってんだ、そんなのは火の魔石で事足りるだろ。それよりも珍しい食べ物なんかが欲しいな。食い物を扱ってるんだ、いろんな味を知らないとな」
そう言われた冨岡は少し考えてからリュックを開け、一枚百円の板チョコレートを取り出した。
「じゃあ、これでどうですか?」
冨岡が手渡すと店主は不思議そうな顔で受け取り恐る恐る匂いを嗅ぐ。
「な、なんだこりゃ。甘くてコクのある匂いが脳天まで突き抜けていく。お、おい、これ超高級品じゃねぇのか兄ちゃん」
思っていたよりも好反応だったことに驚きながら冨岡は苦笑いを浮かべた。
「ははは。どうでしょう、串焼きと見合いますかね?」
百円のチョコレートだけどなぁ、と思いながら提案すると店主は強めに頷く。
「ああ、もちろんだ! むしろ良いのかい。串焼きよりもはるかに高級品だと思うが」
「はい、色々と教えてもらったので」
「大したことは教えられてないが、そう思ってくれてるなら嬉しいぜ。ほら、串焼きは好きなだけ持っていけ」
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