第6話 その先は

「え、気のせい・・・・・・じゃないよな」


 何が起きていたのか確かめるため冨岡は再び鏡に触れてみる。恐る恐る手を伸ばすと手首から先がまるまる鏡に飲み込まれた。


「うわっ、やっぱり・・・・・・ん、あれ?」


 手首まで鏡に飲み込まれた冨岡が気づいたのは風が肌を撫でるような感覚である。

 

「風? もしかして飲み込まれているんじゃなくて、どこかに繋がっている? いやいや、そんな漫画やアニメじゃないんだからそんなこと・・・・・・」


 否定するようなことを言いながらも鏡へと進んでいく冨岡。それはまるで運命に導かれるようだった。

 源次郎の遺言、手に入れた百億円、そして入り込む事ができる謎の鏡。

 全ては決まっていたかのように冨岡の運命を変えていった。いや、運命というものがあるとするならばこれが正しい運命なのだろう。


 意を決して鏡に飛び込んだ冨岡は強い光で目が眩んだ。

 暗い物置から明るいところに出てしまったため目が光に慣れていない。次第に目が見えるようになった冨岡は何が起こっているのかと言葉を失う。

 もちろん鏡の中に入ったこと自体も驚愕すべき事実だ。しかし、それよりも冨岡を驚かせたのは目の前に広がる光景である。

 

「本当に鏡の中に・・・・・・というかここはどこだ。日本・・・・・・じゃない?」


 冨岡の目に映ったのは日本とは思えない西洋風の路地裏だった。広くも狭くもない普通の路地裏である。冨岡が三人横に並んでも歩ける程度だ。

 路地裏と言っても暗いということはなく真上から光が差し込んでいる。太陽がちょうど真上にあるようだ。

 足元はレンガを並べて舗装してあり、目の前には西洋風の木造建築が立ち並んでいる。その建物には窓しかないことから冨岡は建物の後ろ側であることに気づいた。

 すぐさま背後を確認すると同じような建物が規則的に並んでいる。背後の建物もこの路地裏に背を向けているらしく窓しかない。

 建物と建物に挟まれた謎の路地裏。冨岡の視線を釘付けにしたのは物置にあったのと全く同じ鏡である。


「え、鏡? どうしてここに鏡が? というか物置にあったのと同じだよな。もしかして二つの鏡は繋がっているってこと・・・・・・いやいやいや、そんな事があり得るわけ」


 そう言いながらも自分が妙な路地裏にいる事実を突きつけられ、超常的な何かが起きていると認めざるを得なかった。

 確認するために冨岡は鏡面へと手を伸ばす。想像通り鏡は冨岡の手を飲み込んだ。

 自分の仮説が正しいのだとある程度確信を持った冨岡はそのまま鏡の中へと進んでいく。すると一気に空気が埃っぽくなるのを感じ、咳き込みそうになった。

 

「やっぱりか」


 鏡を抜けた冨岡は自分が物置にいることを確認してそう呟く。

 

「この鏡はあの路地裏の鏡と繋がってるんだ。でもそんな魔法みたいなこと・・・・・・でも体験しちゃったしなぁ。あれは一体どこなんだろう・・・・・・」


 鏡からどこか違う場所に転移していたという事実を頭の中で振り返るが、原理など分かるわけもない。


「物置に置いてあったってことは爺ちゃんは鏡のことを知ってたのかな。いや、深呼吸のことより鏡のことを書いておいてよ。でも、何も知らずに鏡を処分するわけにもいかないしな・・・・・・よし!」

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