第5話 謎の鏡
そこからはあっという間だった。
あれよあれよと言う間に時間は経ち日を跨ぎ数日間の様々な契約を経て、冨岡は源次郎が遺した山と引き換えに百億円というとんでもない金額を手にしたのである。
その間に冨岡は三年間務めた会社を辞め、一人暮らししていた家を解約し源次郎の家に引っ越してきていた。
源次郎の寝室で通帳に記された文字通り桁違いの金額に呆然とする冨岡。
「一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、十億、百億・・・・・・いや、なんだよこの数字。金額じゃなくても見たことない数字だな」
その数字の重圧に押しつぶされそうにもなるが源次郎の遺言だけは忘れない。
この百億円を使って困っている人を救う。それが冨岡に課せられた使命だった。これまで二十五年間育ててくれた源次郎の想いに報いる唯一の方法である。
「しかし、困ってる人って言ってもなぁ。寄付でもすればいいんだろうけど・・・・・・」
そんなことを考えながら通帳に視線を送り続けていた冨岡はとにかくこの家の整理を進めるかと思い立ち、家の隣に立っている物置に向かった。
物置というだけあって、この家の中で最も物が置かれている。不用品を片付けるのであれば避けては通れない。
「そういえば子どもの頃から物置は苦手だったんだよなぁ。暗いし何か怖いことが起きるような気がして」
言いながら冨岡は古びた木製の物置の戸を開ける。物置と言っても少し大きめの小屋みたいなものだ。
少し慣れてはきたがやがり埃くさい。舞い上がった埃が差し込む光に映し出され、イメージだけで咳き込みそうになる。
「うわぁ、埃の量が段違いだ。これを片付けるのは大変だぞ」
冨岡は自分にそう言い聞かせ、埃舞う物置へと足を踏み入れた。電灯の類などはなく、外から差し込む光だけを頼りに周囲を見渡すと古い棚やよくわからない模様の壺が乱雑に置かれている。
「壺は爺ちゃんの趣味か? わかんないけど、価値がある物なら捨てるわけにはいかないし・・・・・・」
そう呟きながら探索していると冨岡は自分の身長よりも大きな何かを発見した。元は白かったであろう布がかけられており、比較的大切にされていることがわかる。
「何だろう」
不思議と惹きつけられた冨岡は一気にその布を剥いだ。
そこにあったのは古く重たそうな鏡。周囲の装飾から日本のものではないと推測できる。例えるならば中世ヨーロッパの美術品。高級そうな装飾が施されており、どこか物々しい雰囲気を醸し出していた。
「鏡? やけに高そうな鏡だな。それに高そう。けど、どうして爺ちゃんが大きな鏡を?」
呟きながら冨岡は源次郎の性格を振り返る。時に厳しく時に優しい良き祖父だったが、自分の容姿を気にするような性格ではなかったはずだ。
持っているにしても布をかけ大切に保管しているとは考えにくい。
「布は埃っぽかったのに鏡自体は新品のように綺麗だ。何だ、この鏡」
よく観察しながら冨岡は鏡に近づいた。
少なくとも源次郎が亡くなってから十日以上は経過しており、その間は手入れされていない。それどころか鏡面に傷ひとつなく冨岡が言うように新品そのものである。
そのまま冨岡は導かれるように鏡に触れた。
すると鏡面はまるで液体のように冨岡の指を飲み込む。自分の常識から外れた状況に冨岡は驚愕した。
「うぇ!? 何だ、これ! 鏡に触れた感触がない・・・・・・というか飲み込まれる?」
不気味だと感じた冨岡は思わず鏡から手を離す。すると問題なく鏡から引き抜くことができた。
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