第17話冒険者ギルドを視察しよう
冒険者ギルドその外観は、一際目立つ重厚感溢れる煉瓦造りの三階建てで、中に入ると先ず丈夫そうな造りの広いカウンターが目に入る。
そこににこやかに座る様々なタイプの受付嬢が冒険者の対応をしており、鵜匠のように奥にいる強面のおっさんが目を光らせている。
一階部分は広く
まぁ古代ローマでは市民階級(富裕層)は、朝は日の出前からと早くから働くが、午前に仕事を終えていたと言う。
それに言い方は悪いが、冒険者は自分で仕事を決めて働く個人事業主やフリーターのような存在だ。個人の自由と言えばそれまでだ。
彼らが天秤にかけているのは自分の命なんだから……
少しラフとは言え作りの良い洋服を着た俺は目立つようで、ギルド内の冒険者の視線がこちらに向けられる。その視線は俺の体格や身体、腰に下げた長剣を見てどの程度の身分のある人物なのか? と値踏みをしているのだろう……
幸いなことに周囲には鎧を纏った騎士が何名もいるので、命知らずの酔っ払いが喧嘩を吹っかけて来ても大丈夫だろう……
そんなことを考えていると、階段を下りて来る一団を目端に捕らえた。
「お出迎えが遅れて申し訳ありませんシュルケン様。私は、冒険者ギルドの支部長を務めているヘイロンと申します」
「早速で悪いが訊きたい事がある話を訊かせて貰えるか?」
「もちろんで御座います……」
………
……
…
俺は革張のソーファーにどっと腰を降ろす。
ドアの前と俺の後ろに数人ずつ騎士が配置され周囲を警戒している。
「ヘイロン支部長。冒険者や傭兵の素行が悪く市民からの声が公爵家令息である俺の耳にも入って来る程だが、その事に付いて冒険者ギルドとしての対策を問いたい」
約四年間も存在するのが、急激な冒険者や傭兵の流入による治安の悪化だ。
当然、公共事業以外にも対策は行っていたのだが、冒険者ギルドは目に見える対策を行っておらずそれは何故なのか? また公共事業は効果があるのか? を直接問うために訪問したのだ。
「……」
「当家としては、幾つかの対策を講じている。
一つめは対モンスター戦争へ参加。
二つめは公共事業での日々の糧の提供。
三つめは兵や農民として暮らす道を提案している……しかし、冒険者ギルドはどのような対応をしている?」
「お言葉ですがシュルケン様、冒険者ギルドは貴族程強力な権力を有しておりません。あくまでも冒険者資格剥奪を盾にして協力を要請するだけです。“稼げる” と判断して来た冒険者が手ぶらで帰る事など出来るでしょうか?」
確かに、この世界の移動にかかるコストは大きい。
ただ往復費用を払うだけでは割に合わないと考えてもしょうがないか……
「商人の護衛依頼などで賢い冒険者や傭兵は元の場所へ帰りました。英雄願望や出世欲のある者も対モンスター戦争への参加しました。だからこそ今公爵家領に残っているのは、腕か頭の役に立たない奴らしか残っていないのです」
「だからこそ、俺の戦闘訓練の相手や俺の商会が金を出している道路建設の作業員として金をやっているのだが……」
「それも問題です。移動が早く楽になれば冒険者の流入は早くなり、商人の護衛の依頼も移動日数が減るため稼ぎが減ります」
なるほど一理ある。
一週間かかる所、五日で移動出来てしまえば追い出したいのに来やすくなってしまう。
オマケに護衛の依頼料も日数が少なくなる分安くなり、次の仕事まで休む事が出来なくなってしまうという訳で、だったら食っていく事だけは出来る公爵領に居たいと思うって訳か……
「つまりだ。治安回復には何をすればいい?」
「道路工事の工夫の数を増やしてください。以前までの貴族の援助は中間搾取が多く、末端の民には行き渡らない。直接末端に金をばら撒くべきです! その為にはより多くの仕事を与えるべきだと進言します!」
「仕事は既に提供しているハズだが……」
父上に言われて安くない金を供出している。
公爵家として必要な部分にも金を出しているのでそろそろ見返りが欲しいぐらいだ。
「圧倒的に足りません! 道路建設に付随する橋の建設などもあっても稼げない冒険者にとっては道路建設が救済なのです……」
「と言われてもな、公爵家も俺の商会も泉のように金が湧きだす訳でもない。冒険者ギルドや商人が金を貸してくれるのであれば出来なくはないが……最悪ギルドから離れた村に住んでもらう事になるぞ?」
「稼げるのなら構わないと言う者が大半でしょう。『開拓村への移住』もギルド長として推進するとお約束いたします」
「農民が増える事はいいことだ。工事で雇う冒険者を増やす事は出来るが工事が早く終わってしまうぞ?」
「構いません。道路建設が終われば次は、村の開発や運河の建設になるでしょう……そうなればあと数十年は持つでしょう……」
なんで運河建設計画の事を知ってるんだ? 四年ぐらい前に会議で言ったきりなのに……怖えよ! 冒険者ギルド支部の情報収集能力……
「村や運河、港の拡張計画は確かに存在するしかし、それは全て道が出来てからとなる。ギルドの長として組合員を食わせる必要がある事は認識している。条件に付いては後日代表の者と交渉してくれ……」
「畏まりました。私共といたしましても領主様には公共事業など格別の配慮を賜っておりますので、ギルドの規則に反しない範囲でご協力させて頂きます。シュルケン様を遣わして頂いていることによって領主代行の本気がヒシヒシと伝わって来ます」
……父上は関係ないんだけど……まあ黙って置こう。
「だといいのだがな……」
こうして視察は幕を閉じた。
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