最期の言葉はない。
逃走旅行に際して、別れの挨拶をしようだとか、辞世の句を詠もうとか、そういう考えは一切ない。
ただ一人、黙って消えて行くつもりだ。
そもそも残す相手がいない。
家族にそんなことを言うのは違う。
恋人はいない。
友人もそんなにいない。
その数少ない友人に、今日からお金が尽きるまで旅行して、最後は死ぬんだよね、なんて言えるはずもない。逃走旅行のことは告げずに、最後に会って飲むのはアリかもしれない。どうせいくらでも時間はあるのだから。
思えばこの人付き合いに、悩まされてきた人生であった。
突然だが、私は成人式に出ていない。それが理由か分からないが、同窓会の誘いも一度も来ていない。結婚式の招待など知らない。
何より悲しいのは、それを全く悲しいと思わないことだ。
移動するのも、正装をするのも、金を払うのも、延々と座っているのも、全てが面倒だ。その金と時間で映画に行く方が何倍も楽しい。取るに足らない映画だとしてもだ。
「そういうことじゃない」とよく反論される。
結婚について、人付き合いについて、仕事について、人生について、言いたいことは分かるけど、そうじゃないでしょ、なんてよく言われるのだが、では「どういうこと」なのか、誰も教えてくれない。
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