逃走ログ。

石嶺 経

逃げることにした。

 何をやってもうまくいかない。

 なので逃げることにした。

 家族からも、仕事からも、責任からも逃げてしまえ。


 短くない生涯で学んだことの一つ。

『自分が一番大事』

 自分を守るために、逃走することにする。


 とは言っても、死ぬ勇気が出ない。

 駅のホームや高いところから飛ぶのは怖すぎる。

 一口飲んでコロリと逝ける薬はない。

 一発であの世に行ける拳銃もない。

 まあ、いい。どうにかなる。

 いや、どうにもならない、と言った方が正しい。


 仕事を放り投げて何処かへ行くのだから、いずれ金は尽きる。

 その時に死ぬはずだ。

 闇バイトや万引きをしてまで生き残るつもりはない。

 今のところは。


 とりあえず、日記を処分した。

 ついでにフィギュアも捨てた。

 ゲームセンターで数千円かけてとったものだ。

 あの時は友達がいたな。

 ペットボトルのおまけをコンプリートするため、何軒も回ったのが懐かしい。

 段ボール箱にゴミ袋をかぶせただけのゴミ箱の中。

 思い出たちが焼却待ちになる。

 悲しいとは思うが、清々しい気持ちも少しだけある。


 明日は仕事に行くのだろうな。

 小心者だから。

 来月の給料をもらって逃走しよう。

 まだまだ処分するものはあるし、家賃だって払ったのだから。

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