追放された慈愛の聖女は、研究者に転職し、魔族の救世主となる
仲仁へび(旧:離久)
第1話
ロンドバール王国には、慈愛の聖女と呼ばれる者がいた。
その人物の名前はエミリア。
エミリア・ハートランス。
小さな村で生まれ育った少女だが、強力な聖女の力を秘めていた。
エミリアは、聖女の力を真面目に伸ばした。
そして、一生懸命に与えられた役割をこなしながら、聖女としての仕事をまっとうした。
その結果エミリアは、多くの者達から慕われる聖女となった。
国の中で彼女の事を知らないものはいない程に。
しかし、とある事件で評価が一変した。
災害級のモンスターを目の前にして、何もできずに市民達に甚大な被害をもたらしてしまったのだ。
そのモンスターは、幼い頃エミリアを襲ったモンスターと酷似していた。
トラウマを刺激されたエミリアは聖女の力を使えなくなってしまい、役目を果たせなくなってしまったのだ。
それで、その責任をとる事になり、エミリアは国から追放されてしまう。
財産を没収され、着の身着のままでさまようエミリアだったが、そんな彼女を助ける者がいた。
それは、人間が住む領域から遙か離れた場所に住む、魔族達の王。
魔王だった。
魔王は、エミリアを自分の城に招待し、自らの望みを話した。
それは、魔族の領地で流行っている、原因不明の病を何とかしてほしいというものだった。
今まで魔族に関わってきた事のないエミリアは、自分にできる事はないというが、魔王の必死の頼みを受けてこれを承諾。
その日から、魔族を助けるために、聖女の活動をする事になった。
聖女の修行の中で治癒の力と属性付与の力を高めたエミリア。
彼女はそれに加えて、治療対象の力の流れを読み取る事に長けていた。
だからエミリアは、患者の魔族の体を徹底的に調べた。
エミリアは、聖女として華々しく活躍するより、研究のような地味な裏方仕事の方が自分に向いていると、前から思っていたので、渡りに船だった。
三日かけて行った調べ物で分かった事は、魔族の体の中を流れる生命力が何らかの原因で滞っているという事実だった。
それを知ったエミリアは、聖なる力が魔族にも効くように研究を始めた。
世界には、大まかに二つの力がある。
それは聖なる力と、闇の力だ。
聖なる力は人間にしか効かず、闇の力は魔族にしか効かない。
エミリアはその事実をまず、何とかしようと考えていた。
魔族に聖なる力を与えて、治療しようと思ったからだ。
研究道具をかき集めたエミリアは、さらに一か月を研究に費やした。
その結果、二つの力がなぜ限定的な対象にしか発揮されないのかをつきとめた。
それは、人間の生命の核が聖なる力でできている事と、魔族の生命の核が闇の力でできているからだった。
エミリアは、生命の核に属性付与の力を発揮し、聖なる力が魔族に効くようにした。
そうすると、魔族でも聖女の力を受け付けるようになったのだ。
様々な事実を解明したエミリアは、病にかかった魔族の治療を開始。
多くの魔族を救っていった。
その功績で、魔王は聖女を称え、魔族の救世主として丁重に扱う様に全魔族達に述べたのだった。
それは、人間には異例の対応だった。
行く当てのなかったエミリアは、その後は魔族の領域で生活する事になり、やがては魔王と結婚し、子供を成す事になった。
エミリアは、人間であるものの魔族の一員として扱われるようになった。
彼女は魔族の歴史の中で、長く称えられる事になる。
それはやがて数百年後に、人間と魔族が対立するような大きな戦争な起きた時も、変わらなかった。
追放された慈愛の聖女は、研究者に転職し、魔族の救世主となる 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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