ラウンド9 やっぱり可愛い…?
それからどっぷりと日が暮れるまで、ジョーは賓客室に押し込められて、根掘り葉掘りの質問攻めに遭っていた。
そして、包み隠さずに情報を渡したにもかかわらず、移籍は無理でも特別研究員として定期的に通ってくれないかと、所長や副所長に土下座までされての勧誘を受けることになった。
「だあぁー…。あの程度で、みんな大袈裟なんだよ。」
ようやっと研究所から出ることが叶い、ジョーは深く溜め息をつく。
ちなみにキリハは、特別支援学校の体験授業に行っているシアノを迎えに行くと、先に退出していった。
「お前は馬鹿か。いつもは情報の調整なんざ完璧にできるのに、得意分野となった瞬間に下手くそか。あれは常人の領域じゃないと、客観的に見れば分かるだろう。」
車の後部座席から窓の外を眺めていたノアは、呆れた表情で隣のジョーを見やった。
「逆にお伺いしますけど、薬の世界における調整ってなんです? 下手に力量を調整すれば、苦しみを長引かせるだけなんです。僕が手を出す以上、生かすにしろ殺すにしろ、不要な苦しみは与えません。」
きっぱりと言い切ったジョーは、自身も窓の外に視線を向ける。
相変わらず、根本的なところで融通が
その
まあ裏を返せば、筋が通っている頑固な職人気質ということでもあるのだけど。
「………」
なんだろうな。
可愛くない嫌な奴だと散々喚いていたはずなのに、こうして顔を合わせると離れ
半年ぶりだからか、こんな会話でも楽しいと思えてしまう。
「なあ。」
「はい?」
「この後、食事にでも行かんか?」
「……は?」
想定に全くなかったお誘いだったらしい。
目がまんまるになった心底驚いた表情を見ると、彼の本来の年齢が垣間見えるようだった。
「えー…」
しかしその表情は、すぐに不本意そうな渋面に取って代わる。
「あのですね……僕、一応今は休暇中なんですよ? どうしてわざわざ、あなたと食事になんて―――」
「私は!」
ノアは、ジョーの眼前にビシッと指先を突きつける。
「私は、お前のことをその名前で呼びたくない。」
「………っ」
「そして、どうせお前のことだから、二人きりにでもならないと、本当の名前で呼ぶことを許してくれんだろう? だから、食事という建前を取ったのだ。」
「………」
「いいから付き合え! 私の連絡は無視するわ、肝心なことは何一つ報告せんわで、お前に言いたい文句が山のようにあるのだ!! 今日の今日なら、私がお前を誘ったところで、研究所へのスカウトだろうと思われるだけだ!!」
「………」
「な、何か言わんか! この―――」
言葉は、途中で途切れてしまう。
「………」
ジョーは、こちらを見ていなかった。
窓の向こうに視線を固定し、外の景色を睨むように険しい目つきで眺めている。
時おり街灯に照らされるだけの暗い車内では分かりづらいが、その頬は
(あれ…? やっぱり可愛い……のか?)
こいつが可愛いなんて幻想だと。
半年かけてそう結論づけたのに、再会して数時間で早くもそれを覆してくる。
おかげでこっちは、印象のアップダウンについていけない。
「……仕方ないですね。」
やがて、ぽつりと。
一向にこちらを向かないまま、ジョーが口を開いた。
「今日は想定外の労働が入ったんで、その見返りだと思うことにします。」
「あ、ああ……」
なんだ、この微妙な空気は。
単純に食事に誘っただけなのに、何故こんなにぎこちなくなる。
「……ウ、ウルド。早く店に向かってくれ。」
胸の内の動揺をごまかすように、ウルドへと指示を飛ばした。
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