第9話 正体

「ホントに聞きたい?」

俺はウンウンと頷いた。

「どうしようかなぁ?」

香澄は不倫していた時のように可愛く話す。

「でも、私たちがエッチしてたのを、間近で聞いたり、ラバーシーツ越しだけど接してた人だよ、恥ずかしくない?」

俺は大きく頷いた。

俺は真っ黒な人の様なものの正体が知りたく仕方なかった。


「じゃあ、教えてあげる」

香澄が何か言おうとした時、真っ黒な人の様なものが呻き声を上げ始めた。

香澄に喋らせまいとする様に。


香澄は真っ黒な人の様なものを制する。

「美晴、静かに!」

その瞬間、俺も真っ黒な人の様なものも固まった。

美晴は俺の妻、何で香澄の家にしかもそんな格好で拘束されているんだ。

俺の頭の中がグチャグチャになる。

意味が分からない。

混乱気味の頭で結論づけたのは、美晴という妻と同じ名前の女性ではないかという事。


しかし、名前を呼ばれた美晴は、泣いているような声を出すだけで叫ばなくなった。

その行動こそが、俺の妻、美晴で間違いない事を示していた。


俺は美晴を助け出そうとベッドから、降りるとベッドに掛けられたラバーシーツを取り除く。

香澄もそれを妨害する事なく、ベッドからすんなりと降りた。

ラップを引き千切り、体に巻かれベッドに固定してあったロープを外すが、体は別のロープで亀甲縛りにされていた。

短い手足が動く様になった美晴を抱き上げる。

美晴も精一杯頑張って俺に抱きついてきた。

しかし、美晴の首に巻かれた首輪が邪魔をして俺は美晴を抱いてこの場から逃げ去る事も出来ない。

美晴を再びベッドの上へと下ろした。

「ゴメン、美晴!」

知らなかった事とはいえ、話す事も身動きも取れない美晴がすぐそばにいるのに、俺は昔の不倫相手、香澄と交わった。

美晴にとっては耐え難い事であるのは間違いなかった。


俺は香澄の方へ向き直り聞いた。

「なぜ、美晴を」

「悟の奥さんだからに決まっているでしょ」


間を置いて香澄は今回の計画を話し出した。

俺の事を調べて家まで来た香澄。

もちろん、情報は俺の上司 佐々本課長からだろう。

そこで美晴と偶然を装って仲良くなり、買い物へ一緒に出かける仲になった。

そして、俺がこの地区を訪問販売するタイミングで、午前中買い物へ行き、荷物が多いので手伝って欲しいと言って家に連れてきた。

お礼とともに紅茶でも飲んでと言って、睡眠薬で眠らせた。

後はラバースーツを着せて拘束し、俺の知る通りだと。


香澄は不倫の事実を美晴に直接見せて、俺たちの夫婦中を分断し、離婚させようとしたに違いなかった。

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