SCENE-004


 私が一言「帰る」と言えば、ズメウ――呼ばれるなり私のことをいそいそと迎えに来た氷竜アイスドラゴン――はいかにも機嫌が良さそうにグルグルと喉を鳴らしながら地面へ腹ばいになる勢いで身を伏せて、裸馬ならぬ裸竜な自分の背中へと私のことを誘った。


 そうしていると、愛らしい〝飼い竜〟といった風情だけど。ズメウはこれでも竜国から派遣されているご立派な竜官サマだ。


 ……私を乗せて飛べるのが嬉しいのはわかるけど、いいのかなぁ。

 人化しているときはもっとお澄ましさんなのに。

 ズメウは竜体だと別人のように感情表現が豊かになる。




「落とさないでよ」

 体に魔力を巡らせ、身体能力を強化した私が軽々と飛び上がってその背中に跨がると。翼の付け根近くを跨いだ私の下で、ズメウは「落とすわけがないでしょう」とでも言いたげにグルッと喉を鳴らした。


 長い首を巡らせ、振り返ったズメウはその視線で私に体を伏せているよう促すと、大きく広げた翼にたっぷりと魔力を纏う。

 そうして、単独降下してきた時よりも遥かに少ない羽ばたきの回数で、飛び立つというよりふんわりと浮かび上がるよう、私を乗せて地上を離れた。


 魔法が使えない私の代わりに、ズメウの魔力が私の体を固定して、つるつるとした鱗に覆われている竜の背中から落ちないように支えてくれる。




 交易都市から王都まで。

 乗合馬車ならどんなに順調でも三時間はかかる道程も、ズメウが飛べばあっという間だ。


 氷竜の背中に跨がって、氷竜の魔力に晒された私の体が芯から冷え切る前に、ズメウは王都を囲む三つの城壁を飛び越えて、王城の敷地内にある竜舎近くの開けた場所へと降り立った。



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放蕩娘は〝できそこない〟 葉月+(まいかぜ) @dohid

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