第56話 緊張感を持ち続けるのも大変です

暗殺者の件は、宿屋では旭さんとジャララさんが交代でロナ様を護り、廊下にも一人待機させてもしもの対応に努める事に決めた。

普段の行動でも必ず一人はロナ様の側に付き、護衛をしている事となった。

「あの、皆様そんなに気を張って大丈夫ですか?」

「大丈夫です!」

「心配無用やで!」

魔法使いからの攻撃の後、何かしらのアクションが起こるのではないかと皆が気張っていたが、

「一週間経つけど、なにも起こらないわね」

ボソッと旭さんが呟く。

「何か起こると困るんだけど⋯」

「ふああ⋯」

欠伸あくびをしながらアトルが大きく伸びをする。

「ほら、アトルが気を抜きかけてるわよ」

「いや、ある程度は気を緩める事もあるけれど気を付けないと!

ふわあ⋯」

注意を促しつつも、俺も欠伸が移ってしまう。

「寝不足なんと違う?」

「そら毎日見張り番しとったら寝不足にもなるんやない?」

カラチとジャララさんもちょっと心配そうに聞かれる。

「うーん、そうは言ってもね⋯」

暗殺ギルドに狙われている以上、気を抜く事は許されない⋯気がする。

カラチの一件の時はどの位の組織と人数か、本部はどこかが把握出来ていたので作戦を練れたのだけれど、今回の件はジャララさん本人はあまり暗殺ギルドについて詳しくないようで、ギルド本部もどこにあるか知らないそうだ。

カラチが言うには、

「まあワテの場合は分かりやすい場所に本部があったから壊滅出来たんやけど、暗殺⋯は表立って活動しとるギルドやあらへんからなあ」

そりゃそうだろう。

暗殺者が目立ったら商売あがったりだろうから⋯。

そう思いつつ、街道を歩いて目的地の森へやって来ると、

「あそこに殺人ウサギがおるで。注意したってや」

小さな声でカラチのアドバイスを言われる。

「ジャララさん、そういえばギルドのメンバーにテイマー能力者っているの?」

俺はふと思った事をジャララさんに聞いてみる。

「テイマー?

あまりおらへんと思うで。

知り合いに一人位はおったかなあ⋯でも、何でそないな事聞いたん?」

曖昧な返答をしながらジャララさんに逆に質問される。

「いや、こういう時殺人ウサギを操って暗殺⋯もあるかもと思って」

「宗也くん、フラグ立てるのヤメテ」

旭さんが眉をひそめて俺を叱ってきた。

「スイマセン⋯」

肩をすくめて旭さんに謝る。

「まあまあ。

まずは旭さんの魔法で眠らせてから調査に入りましょう」

ロナ様の指示で旭さんが小声で呪文を唱えて殺人ウサギを眠らせる。

眠っている隙に身長や手足の長さを測り、仰向けにするため触ろうとした時、突然ウサギは飛び跳ねた!

「えっ!?

寝てたんじゃないの!?」

ウサギの顔を見るとまだ眠っているようで目をつぶっている。

「これ、テイムされているのか!?」

「テイム⋯というより念力とかで動かしているような感じ?」

以前会ったウサギよりも動きもぎこちなく俊敏性が無い。

「とにかく今のうちに倒そう!」

全員武器を構え、隙を与えない速さで殺人ウサギを倒す。

念のため首を切り、そうそう簡単にこちらを攻撃出来なくしてから、

「フラグ回収⋯」

「ソレヤメテ」

ボソッと旭さんが呟いたのを俺がツッコミを入れた。

斧の先でアトルがツンツン突っついて動かないのを確認してから、

「なあ⋯他にも殺人ウサギ出てこないよな?」

と、聞かれたので、

「全員撤収!」

即座に皆で森から逃げ帰ったのだった。

俺達が森から出た後、

「中々⋯勘が鋭いな⋯」

殺人ウサギを従え、杖を持ちフードを被った男達が数人、森の木陰から俺達を見ていたが、それに気付く者は俺達の中には誰もいなかった。






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