第52話 新たな疑問

「久しぶりに会ったっていうのに、何であんなに自由なんだよお袋ー!!」

俺は怒りに任せて水の入ったコップをゴンッとテーブルに叩きつけるように置いてしまう。

「あの方が宗也さんの御母堂様なのですか?

随分と⋯自由奔放な方のようですわねえ」

片手を頬に当てながらロナ様が喋ると、

「そうなんですよ!昔から、

『こっちから行くと近道!』

とか言って迷子になったり、町内会の催しで焼きソバ頼まれたら大量に作りすぎちゃうし、余ったのを無料で配って会長に怒られたり、

『誰かが助けを求めている!』

とか言って数年前に行方不明になったりしてたんですよ!」

俺の勢いにロナ様もタジタジになってしまう。

「そ、それは大変でしたわね⋯」

「焼きソバってなんや?」

「麺と野菜を蒸し焼きみたいにしながら炒めて甘塩っぱいソースで味付けした食べ物だよ」

カラチに旭さんが補足説明してくれる。

「とにかく、魔王城近くに住んどるっちゅうんは分かったんやし、なんとか生きてそこへ行くしかあらへんやろうね」

ジャララさんがそう告げてこの話を終わらせようとした。

「そうそう。

さ、注文も全部揃ったし、食べようぜ!」

アトルもそう言い食事を食べ始める。

「それも⋯そうだな。

いただきます⋯」

皆で黙々と食べていくと、

「皆様ちょっとよろしいかしら?」

ロナ様が喋り出す。

「なんでしょうか?」

「皆様はこのまま魔王城へ向かうのですわよね?」

「正確には魔王城の近くの場所に寄るプラン⋯という事になりますかね」

「魔王を倒せるか⋯というと自信が無いものね⋯」

俺と旭さんの回答に他の皆もウンウンと頷く。

「そうでございますか⋯」

ロナ様はそう呟くと、また黙々と食事を行う。

(何か疑問でもあったのかな?)

一緒に旅をし始めて半年。

段々とロナ様の性格を皆も把握してきていた。

この世界でも10本の指に入る貴族令嬢のロナ様は、小さい頃からあちこちの本を取り扱い、読んできたため知識が豊富である。

しかし、結婚相手にも博識さがある事が婚約の決め手なため、中々そういう相手に恵まれないので今日こんにちまで結婚していないのだそうだ。

それに加えて、生物や魔物の生態も調査したいという夢を持っていて、そこも婚約を敬遠して旅をする理由なのだが、最近は魔物を調査する時に険しい顔をなさっているのを度々目撃している。

「何か気になる事がございましたか?」

俺が直接的に質問してみると、

「いえ⋯後で皆様にお部屋でお話いたしますわ」

そう言い終え、また食事を再開した。


俺やカラチ達の部屋に皆で集まり、さっきの話の続きを行う。

「先程のお話の続きなのですが、皆様は今まで遭遇した魔物の名前等の知識はどちらで覚えましたか?」

「えっ?」

予想外の質問に一同何も言えずにいると、

「そう言われればそうだな。俺はゲームとかで名前と特性を覚えたけど」

「私も似たようなものだわ」

「ワテは前の世界におったのと同じ魔物が出てくるんやと思うてたわ」

「ウチもや」

「オレは母ちゃんから名前とか教えてもらっていたぞ。

あと実戦で特徴とかを覚えたなあ」

と、各々どう知ったかを報告する。

「そう⋯なのですね。

では、前の世界と同じ生物や動物にこちらの世界で遭遇した事はございますか?」

「えっと⋯それは無いなあ」

「私も」

「ワテに似たネコっちゅう動物がおるんやけど、こっちでは見た事あらへんなあ」

「そういやそうだな」

「ニャンコもワンコも見いへんね」

「ネコ⋯ワンコ⋯って何だ?」

召喚先の世界出身のアトルはネコとかを見た事が無いらしい。

「やはり、こちらの世界の魔物はこちらにしか居ないという訳では無いのですね⋯」

ロナ様の発言にふとした疑問が浮かぶ。

「まさか⋯魔物もこちらの世界に召喚されてきた物⋯という事ですか!?」

「まだ断言は出来かねますが、調査していくしかごさいませんね」

真剣な顔でロナ様はそう告げたのだった。







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