第一章 冒険への旅立ち

第1話 高校生(異世界で)旅立つ

 唐突に土の臭いがして目が覚めた。

 アスファルトじゃない硬い土の感触が手の平から伝わる。

 土の上に寝ていたからか、ちょっと痛む背中をさすって起き上がって周りを見ると、別の所には何かの模様が地面に描かれてある。

自分以外にも何人かが、土の上に寝っ転がっていたり、もうすでに起きていたのか列を作って何かの順番を待っているみたいだ。

 よく見ると、性別も人種も着ている服も言語もバラバラで、全くまとまりがない。

 じっとしていてもしょうがないのでブレザーの土埃つちぼこりを払い、列に並んでみる事にした。

 「…これをこうするとステータス…はい、あなたは職業ジョブ戦士ですね。スキルは…おおっ、これは中々強いですぞ!」

 おじいさんが屈強な男性にニコニコしながら説明している。

(…スキル? ステータス?)

 聞き慣れた単語が出てきたみたいだが、

(まさか…な)

 持ち物は前のままだし、よく聞く異世界転生とかでは無いだろうと思う。

 「はい、次はあなたね。性別は男性ね」

 カタコト気味におじいさんに話しかけられる。自分の順番が来たようだ。

 「細かい事はあっちで話すからね。まずはこのカードを首からかけてね」

 言われた通り紐付きのカードを首から掛ける。

 「はい、次はこのカードを持ってみて。そうするとホラ、上に自分のステータスが…これは珍しい。拳闘士か武闘家か職業ジョブが選べるねキミ」

 そこにいた数人が物珍しそうに自分の上に出た半透明のステータス画面を見てくる。

「空手をやっているからかなあ」

 と、ボソッとこぼすと、

「カラテ? まあよくわからないけどね。とりあえず今ジョブを決めちゃってよ。そうしたら装備を渡すから」

 装備まで用意してあるのか。思ったよりも親切なんだな、ここ。

 「じゃあ、武闘家で」

 キックもパンチも有りだと考えて武闘家を選ぶ。

「はい、じゃあコレ。そっちに更衣室があるからそこで着替えてね。スキルは…自己回復オートヒーリング(小)だね。歩くと回復するよ」

 自己回復か…薬草の使用が少なくて済むのかな?

 なんて呑気な事を考えながら言われた通り更衣室(と、言ってもカーテンで覆っただけの簡易スペース)で着替える。

 チャイナ服のような服と右手用の鉤爪かぎつめを装備。RPGゲームでよく聞く服装だ。制服とかの荷物はバックパックに全部しまい込んでおいた。

 (万一盗まれたりしたら一大事いちだいじ…だよな)

 そう思い、肌身離さないようにしようと決めた。


 更衣室から出るとさっきの人とは別のおじいさんが「こっちだ」と案内してくれる。そこにはさっき一緒に並んでいた人達がバラけて立っていた。

 ある程度人が揃ったので、また別のおじいさんが台に乗り、メガホンみたいな物を手に、説明を始めた。

 「あー、テステステス。後ろの人聞こえますか?」

 後ろの人の反応を見て説明を進める。

 「突然どうして見た事も無い場所に集められたんだ? と思っていると思われますが、実はあなた達はワシ等の世界に召喚されました!」

 なんとなくそうじゃないかと俺は思った。そうするとあの模様は魔法陣というやつか?

 おじいさんは続けて説明をしていく。

「皆さんには自身に向いている職業ジョブを提供しました。そしてスキルも付与してます」

 『ランダムですが』

 と、ボソッと小声で呟いたのが聞こえた。

 そうか、アレはハズレスキルではなかったのかもしれない。と、思う事にした。

 「それで、あなた達はこの世界の魔王を倒しに行ってもらいます」

 へー魔王…えっ? 今なんて言った!?

 「おいっ、魔王退治なんて聞いてないぞ!」

 周りがザワザワとしてきて、その中の一人が文句を言う。

 「そうだそうだ!」

「元の所に還せ!」

 途端に「還せ」コールが鳴り響く。

 「もちろん還れますよ。ただ、帰還返喚きかんへんかん出来る場所はここにはありません。ずうっと遠くの土地に返喚へんかん出来る魔法陣があります。魔王退治しなくてもそこに行けば還れます。そこを記した地図もありますのでどうぞ受け取ってください」

 その言葉に安堵したのか、

「じゃあ、とっとと行って還ろう!」

 と、誰かが言い、ゾロゾロと並び地図を受け取り、ついでにお金も貰い旅立っていく。

 「あなたはどうしますか?」

 おじいさんに聞かれ、

「とりあえず先へ進んでみます。親切にありがとうございます」

 ペコリとお礼を述べて地図を見ながら旅に出た。


 どんな目に会うのかは、その時そこにいた召喚者は誰も想像していなかった…。

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