第一章6【家族】

 あたりは騒然としていた。こんな村の中で子供たちが魔法を放ったのだから当たり前だ。だがキョウ達が去った後も村人達は留まっていた。彼らは問題の渦中にあった黒いを持った少年を見つめていた。


 彼らも既にこの村に長く住むシュウの事は把握している。だからといって、彼らがシュウの事を無視できるかどうかというとそうではない。本来であれば被害者であるはずのシュウは、周囲から今もなお軽蔑的な視線を感じる。


「ほら、早くフード被りなよ」


「わかってるよ」


 少しでも周りからの視線から逃げようとしてフードを被りなおすが、村人達は未だに囁き続けているおり、


「はぁ、私が今からここで、叫んでやろうかしら。シュウは悪くないって」


「いい、余計なことはしないでくれ」


「はぁ!余計って何よ!私はシュウのためにしてあげようと」


「……頼むよ」


 僅かに声を荒げるミラだったが、少し冷静になってくれたようだ。だがこのままでは動き辛いのも事実だ。さて、一体どうしたものか、


「皆の衆!何があった!!!」


 突然大きな声が響き渡り、辺りが騒然となる。すると向こうから土煙を上げて、誰かが走ってきた。


 大きな男だ、身長が高く、自分が会話するなら彼を見上げないといけないだろう。歳はある程度いっているが、肉体は凄まじく鍛えられており、いまも身体から闘志が溢れている。


「あ、村長」


 村人の一人に声をかけられた男、村長は騒音を聞きつけ、ここに走ってきたそうだ。現在は村人に何があったのかを聞いている。村人と村長の目線から、彼らが自分の事について話していることは、容易に想像できた。


 どうやら話し終えたらしい村長が村人にお礼を言うと、こちらに歩いてくる。これから何を言われるのか、覚悟しなければならないなと身構えるが、彼はこちらに背を向け、村人達の方へと振りむき、


「事情は全て把握した!!!後はワシが引き継ぐ!!!皆の衆は解散するがよい!!!」


 そう叫んだのであった。


「災難だったな、少年少女よ」


「少年少女って。俺にはシュウって名前があるし、こいつにはミラって名前がある。」


「かっかっか!!!そうであった。歳を取るとつい忘れっぽくなってしまってのう!!!」


 相変わらずの声の大きさだ。父さんから聞いたが、村長は昔、かなりの実力の冒険者だったらしいが、こうして実際に話していると納得がいく。

 

 恐らく冒険者としては10年以上前に引退しているだろうが、いまでも並の冒険者達が束になってもかなわないだろう。


「それで村長、俺に対して何か罰はありますか?」


「ちょっと!?待って下さい、村長!シュウは何もしてません。あの馬鹿2人に一方的に絡まれただけで━━」


「あー、分かっておる。お主のが原因じゃろ?まあ、気にするでない。あの悪ガキどもの親には強めに言っておくわい。かっかっか!!!じゃあワシはまだ村の巡回が残っているのでな!」


 それだけ言い残し、笑いながら村長は去っていった。あの村長こそが自分がこの村にいられる理由だ。

 確かに自分の両親は家名を持っているため多少の融通は利くが、限度はある。そんな自分が両親も含めてこのエスト村で暮らせられるのは、あの村長のおかげであり、


「村長って、本当にシュウに対しての偏見とかが無いのね」


「うん、俺が生まれた時、父さんと母さんが俺について相談しに行ったらしいんだ。そしたら、あの村長『災いが来るなら、是非ともお手合わせ願いたいのう。カッカッカ!!!』って笑い飛ばしたらしいんだよね」


「すっごい簡単に想像できるわね、それは」


 シュウとミラは笑い合いながら家に帰るのだった。




 * * * * *


 


「ただいまー」


「あら、おかえりなさい。ってシュウ!どうしたのその傷は!」


「まぁ、ちょっとね、って痛っ!急に触らないでよ!」


 シュウ達が家に帰宅すると、既に母親のリサが夕飯の用意をしていたが、彼女はシュウの顔を見るとすぐさま駆け寄り、傷を確認するために身体中を触り始めた。


「もう、なんでシュウはいつも傷だらけで帰ってくるのよー。あ、ミラちゃん、買い物ありがとう。買ってきた食べ物はキッチンの上においてくれる?」


「はーい。あ、リサおばさーん、この食べ物は、って何してるんですか!」


「ちょっ、待って!痛いって!勝手に服を脱がさないでよ!ミラもいるんだし!1人で脱げるから!」


「別に気にしなくていいじゃない。昔は2人で一緒にお風呂にも入ってたんだし」


「それは、昔の話だろ!って痛い痛い痛い!!!!!」


「ほらー勝手に動くから、余計に痛くなるのよー」


「誰のせいだと思ってるんだよ!」


「ただいま!!!皆の大好きなお父さんが帰って来たぞぉぉぉ!!!!おっ、ミラちゃん、いらっしゃい。リサとシュウはなに遊んでるんだ?お父さんも混ぜてくれよー」


「父さんには!これが遊んでるように!見えるのかよ!」


「わ、わ、私!ちょっと家に帰ってお母さん呼んできますね!!!」


 マイペースな母さん、元気な父さん、幼馴染のミラ、ここにはいないけどミラの母親のフランおばさん。

 相変わらず、ここは賑やかな家だなと勇翔に笑いかけられたような気がした。


「あっ、ちょっと待って!下は!下は駄目!ちょっ、やめてー!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る