第77話 スタンピード③
スタンピードの報告から三日が経った。
俺達は騎士団や冒険者の混成部隊200名と共に北門を出て隊列を組んでいる。
最前列には盾を構えた重装備の騎士が前線を固め、後列は長い槍を持った軽装の戦士、その後ろに弓兵や魔法使いといった感じの布陣だ。
さらにその先頭に俺とシャルロットがいる。
城壁の上にはギルドマスターのローランドさんとルカ・レスレクシオンの二名。
隊列の中央には騎士団長のレオナルドさんがいる。
俺は修理の終わった二十番の魔剣を手に持ち、敵が来るのを待つ。
久しぶりに持った魔剣は前よりも手にしっくりくる。
ルカが言うには重さは変わっていないらしいが重心のバランスを見直したそうだ。
脆弱だった機械部品も改善され、多少は乱暴に振り回しても問題ないそうだ。
もちろん俺だって剣を学んだ、乱暴に扱ったりしない。
それに、俺には優秀な相棒もいるし、無様な戦いはしないさ。
「シャルロット。今回俺達は遊撃隊だ。強力な個体を見つけしだい、それを順番に刈り取る。目的は魔剣への魔力吸収だからな」
「ええ、分かってるわ」
ただ倒すだけなら、シャルロットを後衛にして遠距離から魔法を有効に使えばずっと簡単になる。
だが今回は俺が積極的に魔剣で敵を倒す必要がある。
だからシャルロットには俺のサポートを任せることにした。
信頼できる仲間は彼女だけだ。
「まずは敵の隊列を崩す必要がある。マンイーターは数が揃うと密集隊形をとってジリジリと敵の集団にぶつかり戦力をすりつぶしていくそうだ」
「そうね、だから敵の陣形のど真ん中にどでかい魔法を落として陣形を崩せばいいのね。まっかせなさいって!」
打ち合わせもばっちりだ。
時間が過ぎていく、やがて森の奥に異変がおとずれる。
森の奥から黒い鳥の群れが慌ただしく空をとんでるのが見えた。
「来る!」
森から次々とマンイーターが出てくる。
およそ百匹。報告通りだ。
そして、奴らは平原をゆっくりと歩きながら、一番大きな個体が咆哮をあげる。
その咆哮を聞いたのか、奴らは騎士団の隊列に対峙する形で、隊列を組んだ。
魔物とはいえ彼らもバシュミル大森林に覇を唱える一つの軍隊なのだ。
互いの軍隊の距離がゆっくりと縮まる。
「そろそろだな、シャルロット、くれぐれも味方を巻き込まないでくれよ?」
「誰に言ってるのかしら? よく見てなさい」
シャルロットは、後にいる騎士団長に合図を送ると両手を上げ、深呼吸をする。
次の瞬間、自身を中心に何重もの魔法陣が展開される。
魔法陣から複雑な文字やら記号が浮かびあがり、それは大きくなりながら上に向かって立体に伸びていく。
「いくわよ! 極大火炎魔法。最終戦争、序章第一幕、『流星群』!」
シャルロットは空に向けて、魔法を放つ。
その瞬間に空に巨大な魔法陣が出現する。
赤い文字で空に描かれた魔法陣は単純に恐ろしかった。
極大魔法の恐ろしさはいつ見ても変らない。中級魔法とはレベルが違うのだ。
そして無数の燃え盛る岩石が上空から飛来する。それは敵の隊列のやや後方に着弾した。
着弾地点には小規模な爆発が連続で起こり、ババババ、という、花火のような音がした。
後方で何が起こったのか、前列にいたマンイーターの精鋭達の動きが止まった。
後列にいた奴らの20~30体ほどは巻き込んだだろう、さすがは極大魔法。
騎士団長が戦闘開始の合図とともに掛け声を上げる。
「よし、シャルロット。俺達は先頭の一番デカい奴。おそらくリーダーだろう、まずはあいつをやるぞ!」
「オッケー。サポートはまかせなさい。あんたは気にせずに突っ込んじゃってちょうだい」
「わかった。じゃあ行くぞ! ヘイスト!」
俺は全力でマンイーターのリーダーめがけて突っ込む。
単純な突き技ではあるが、魔剣の威力によって奴は胸部に風穴を開け絶命した。
「カイル! 次はあっちよ! 騎士団の隊列が崩れそうになってる。あれもリーダーに次ぐ強さって事かしら、急がないと被害がでるわ!」
シャルロットは周りをよく見ている。
「よし、全力で走るぞ。遅れるなよ!」
「誰に言ってんのよ。私だってずっと足腰は鍛えてるわ。それに私だってヘイストを使える。あんたほどのレベルじゃないけど、ついてくだけなら何も問題ないわ」
俺達は戦場を縦横無尽に走った。
順番にリーダー格と思われるマンイーターを狙う。
10体ほど仕留めるころには、奴らは統制が取れなくなったのか逃走を始める個体がでてきた。
騎士団長は大声で騎士団全体に指示をする。
「敵の陣が崩れたぞ! 全軍突撃! ここで数を減らせ! 本隊への合流を許すな!」
俺達も追撃に加わる。出来るだけ魔力の高そうな大きな個体を狙う。
20体ほど狩っただろうか。これほどの数の大型の魔獣を狩るのは初めての経験だった。
そして、戦いは終わった。
興奮が冷めると、急に手足にしびれを感じた。
そうだ、いくら強くなっても疲労は蓄積するのだ。
だから一騎当千なんてありえない。それは物語の英雄譚でしかありえないのだ。
そして、英雄気取りは連戦連勝の末に取るに足らない敵にあっけなく殺されるのだろう。
俺だって最後の方は動きが鈍って危うい場面が何度もあった。
シャルロットのサポートなしではとっくに死んでただろう。
思わず魔剣の重さに耐えられず地面に落としてしまった。ズン、とその重さで地面深くまで刺さる二十番の魔剣。
柄の先にあるオーブの色は青く輝いていた。
ルカが言うには青になれば魔力は充分とのことだった。
目的は達した。
「よし、やったな……」
「ええ、やったわ!」
俺達はいつものハイタッチをしたが。手の平の痛みで、思わず腕をひっこめてしまった。
「っつ! 悪い、情けないけど、俺はもうヘトヘトのようだ。腕もうまく動かないや」
「仕方ないわね。回復魔法を……いいえ。ただの疲労なら。むしろ回復魔法は使わない方がいいんだっけ?」
「セバスティアーナさんが言ってたな。回復魔法を使ってしまったら肉体的な鍛錬はリセットされてしまうって。
これだけの鍛錬をリセットしてしまうなんてもったいない。
ならこのまま帰還すると……。あれ? 足が」
俺の疲労は余程ピークに達していたのだろう。骨は折れてないけど、筋肉が言う事を聞かなかった。
やはり、あの重量の魔剣を振り回すのは無理があったのだ。
「もう、しょうがないわね、私の肩を貸してあげるから、少し木陰で休んでいきましょう」
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