第76話 スタンピード②

 なんやかんやで、ルカ・レスレクシオン、元エフタル王国辺境伯の同意を得て作戦会議が行われた。


 今は身分は無くても、かつての権威ある立場だった実績は、政治的な面では今だに有効なのだ。

 

 もっとも、作戦会議とはいっても時間がないため、ルカが全権を持つ形で会議は進んだ。

 ギルドマスターはおろか、ひょろがりの、いや騎士団長レオナルドさんも同意だった。


 領主が逃げたという緊急事態のため反論を言う者はこの場には居なかった。


「こほん、では命を下す。騎士団の全指揮権はひょろがり……レオナルドが執ること。

 デコ助……ローランドはそれの補佐。それに予備役の招集を許可する。

 政治的なことは領主が逃亡したため、吾輩、ルカ・レスレクシオンが代理総督として責任をとるので騎士団は思った通りに行動せよ。

 冒険者達は各々の力量によって、最善の行動をとること。

 戦いが得意なものは騎士団に合流、そうでないものは住民の避難の支援をすること。

 敵の先遣隊が到着するまでに城壁の修繕とバリケードの構築。

 敵の最初の先遣隊は100匹、騎士団は冒険者や予備役を含めると200人以上にはなるだろう。


 数では有利、籠城はせず城外に打って出る。短期決戦で敵の本隊が合流する前に仕留める必要があるからだ。


 先遣隊を倒せば、一週間の猶予が生まれる。そしたら吾輩の秘密兵器をつかって一網打尽だ。

 だから諸君の戦う敵は100匹のマンイーターのみ! どうだ少し楽になっただろうが、この戦いは充分に勝機がある。では行動開始じゃ!」


 集まった人たちの顔が明るくなった。そして、皆さんは自分のやるべきことをすべく行動に移った。


「よし、では吾輩は件の秘密兵器に必須な二十番の最終調整といこうかのう。秘密兵器とはカイル少年、君のことだ。期待してるぞい」


「え、俺ですか? しかし、いくら二十番の魔剣があるといっても1000匹は無理なのでは?」 


「安心せい、作戦はこうじゃ。

 まず前提条件として、カイル少年には騎士団の最前線にたってもらう。そして二十番で出来るだけ多くの魔獣を切り殺せ。

 魔剣に魔力を吸い取らせるのじゃ。

 そして、敵の本隊が到着したら城壁の上から蓄えられた魔力を全て使った魔剣開放の一撃で一網打尽にする、簡単じゃろ」


 二十番の魔剣、機械魔剣『ベヒモス』の魔剣開放は、術者の魔力を大幅に増幅し、剣を通して強力な攻撃魔法を前方に放射することができる。

 たしかに、あれなら集団の敵に対して極めて高い効果が期待できる。

 でもまだ修理は終わっていないはず。


「安心せよ、修理は終わった。改造による最終調整がまだ不完全なだけじゃ。

 三日後には完璧な……いや、よりよい武器としてお主に渡すことが出来るだろう。

 だがのう……吾輩の身体は一つ、ゆえに助手が必要だ。

 なんせ、吾輩にはセバスちゃんがいない。致命的であろうが?


 ……なに、専門的なことは必要ない、吾輩が作業に集中できるように、冒険者の仕事はキャンセル、吾輩の身の回りの世話をたのんだぞい。あとお嬢ちゃんはお茶くみは必要ない。別の仕事をたのむ」


 床に散らばっていたティーカップの破片と、テーブルの上には中身がほとんど残っているティーカップが置かれていた。


 俺達はルカの家で家事手伝いをして過ごした。


 そして、夜が更けた。

 スタンピード騒ぎで、慌ただしかった街に静寂が訪れる。


 街の皆は眠れているだろうか。

 ルカの命令として徹夜作業は禁止している。本番は三日、いや二日後か。

 敵が来る日時がわかっていれば、それに備えて決して生活のリズムを崩してはいけない。

 特に要である騎士団が三日徹夜してしまえば戦力にはならない。


 そう、勝てる戦いなのだ、でも俺は興奮しているのか、なかなか寝れそうにない。

 俺は素振りでもして速く眠りに付こうと外に出た。


 夜風が肌寒い。俺は九番の魔剣ノダチの鞘を抜くと素振りを始める。この剣には随分お世話になった。

 最初は剣の使い方なんて全く知らない素人だったけど、セバスティアーナさんの指導もあって今では剣士として恥ずかしくないレベルにはなった。

 セバスティアーナさんの故郷の剣術か、そういえば彼女の故郷ってどこなんだろう。


 バシュミル大森林の奥だというのは聞いたが、その場所は外の人間には分からない。実力が付いたら一度訪ねてみたいとも思う。 


「カイル、まだ起きてたの?」

 後ろからシャルロットの声がする。


「シャルロット、情けない話さ、眠れないんだ。まだ二日はあるのに、プレッシャーかな、はは、まだまだ未熟だ」


「そうなの? でも、それを言ったら私もそうかもね、眠れないから夜風でも浴びようと思ったら、あんたがいた」


 彼女は寝間着姿のままだった。なるほど彼女もプレッシャーに感じているのだろう。

 いつも戦闘では冷静だったが、彼女だって戦闘経験は俺と変わらないのだ。

 本来なら男の俺が彼女の支えにならなければいけないはずなのに。


「情けないけど、俺はこの話を聞いたとき、真っ先に逃げることを考えた」


「そう? なら私も情けないのかしら? 逃げることを考えるのは当たり前じゃない? 1000匹相手に勝てるわけないし。

 でも今は100匹に減った、それに味方は200人、まあ実際まともに戦えるのは現役の騎士団だけだとは思うけど。それでもけっこう楽になったじゃない?」


「でも相手は、若いマンイーター、先遣隊ってことは精鋭中の精鋭だろ? 不安じゃないか?」


「不安よ、当たり前じゃない、だからあんたはこの時間に剣を振るってるんでしょ?

 私もそうしようかしら、……丁度いいわ、二人いるのに素振りをするのはもったいないし、ちょっと模擬戦でもしましょうよ」


 シャルロットは俺よりもずっとしっかりしている。これではどっちが年上かわからない。でもすこし楽になった気がする。


「ああ、そうだな、ありがとうシャルロット。君がいてよかった」

「え! ……うん、ええそうね、私が居て良かったでしょ、さあ、かかってきなさい!」

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