第61話 冬の冒険者①
首都ベラサグンの街は寒波に見舞われた。
この辺は雪は滅多に降らないらしいが、数年に一度は大寒波が来るときもある。
「寒いわね。冬服を買っておいて正解だったわ。さすがにいつもの服は着てらんないもの」
「あら、残念ですね。凄くお似合いでしたのに、カイル様もそう思いますでしょ?」
「ああ、でもさすがにノースリーブは無茶だろう。でもそれも似合ってるから大丈夫だ」
少し大きめのロングコートを着ている彼女は少し幼く見えた。
普段は温暖な地域であるここは、真冬用の装備は品ぞろえが良くなかった。
特に大人用のロングコートは冒険者仕様となっておりサイズも大きいのばかりだ。
だからシャルロットは子供用のコートを着ている。もこもことしたデザインが可愛らしい。
「ふん、別に似合って無かろうと実用性で選んだのだから問題ないのよ。でも一応ありがと」
ちなみに俺は冒険者用のロングコートで飾りっ気のない実用一辺倒だ。
セバスティアーナさんもいつものメイド服だ。
ちなみに替えのメイド服は何着かあるようだ。
いつも同じ服を着ていると誤解されかねないと、以前真面目な顔で注意されたので訂正しておく。
俺達はいつも通りに冒険者ギルドまで来ていた。
ギルド内の人たちはまばらだった。
冬になると魔物も冬ごもりをする個体がほとんどだから、ベテラン冒険者は南にいって稼ぐか、首都でゆっくりと過ごすかの二択だ。
オーガラバーズの皆さんは商隊の護衛任務でオアシス都市を経由して西グプタまで行くと言ってた。
だがまったく魔物が出ないかというとそうでもない。
特に大寒波は珍しい。
こういう時はだいたいイレギュラーは起こるものだ。
あった。緊急討伐依頼だ。
――急募。大型魔獣フロストベアの討伐任務。
北方の魔獣フロストベアが寒波に乗じてベラサグンまで来ている。
現在は街の城壁を徘徊しているという目撃情報があった。
現状は被害がでていないが、このままでは商人や旅人に被害が出る。
冒険者には周囲の探索調査、発見した場合は速やかに討伐すること。――
よし、これを受けよう。
「二人とも問題ないね」
「もちろんよ」
「はい、よろしいと思います。ちょうどカイル様の修行もひと段落ついたところです。実戦訓練の相手として申し分ないでしょう」
修行……セバスティアーナさんは普段は優しいが修行となると鬼のように厳しかった。だがなんとか乗り越えることができた。
俺達はすっかり雪に覆われた街を抜け城壁の外に来た。
そのまま街道を外れ城壁沿いにフロストベアが発見されたという場所に向かう。
普段は枯れた草原が広がっているこの場所だが、昨日まで降っていた雪のせいで一面真っ白になっている。
しかし、そこまで深く積もってはいないため歩行には特に問題はなかった。
「さて、ここで休憩をしましょうか。カイル様、キッチンカーを展開してお茶の準備をお願いします。私は少し偵察に行ってきますので」
俺とシャルロットは言われたとおりにキッチンカーを固定しテーブルを広げる。
「セバスティアーナさんっていったいいつ休んでるのかしら」
「うーん、不思議だよな。任務中は休んでるところを見たことがない。もっとも彼女の実力からして休むまでもないのだろうけど」
お湯が沸く。
俺はティーカップを三つ用意して。ティーポットから紅茶を注ぐ。
「おや、私の分も用意してくれたのですか?」
「はい、というか本当に速いですね」
「ええ、相手は知能の低い魔物ですから見つけるのは簡単です。マーキングしていますので、お茶を飲んだら行きましょうか」
セバスティアーナさんが余りにも有能すぎて、俺とシャルロットははっきり言って邪魔なんじゃないだろうか。
少しだけ嫉妬心を抱いてしまう。いや、修行を付けてもらっている身でなんてことを考えるのだろう。
「何か気になることでも?」
「いえ、なんか俺達足手まといなんじゃないかなと」
「あら、そのことですか。気になさらないでください、といっても余計に気にしてしまうでしょうね。そうですね、でしたら今回はお二人だけで戦っていただきましょうか。
私は斥候としての仕事は終えました。高みの見物をさせていただきましょう」
よし、ならば。
俺は気合を入れる。
「ちなみにフロストベアは二体いました。つがいでしょうか。連携攻撃を仕掛けてくるかもしれませんので、お二人も連携して戦うことをお勧めします」
二対二、やってやろうじゃないか。
俺はシャルロットを見ると彼女も力強く頷いた。
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