第47話 首都ベラサグン①

 俺達は旅を続けた。


 あれからいくつかのオアシス都市を通過した。

 豪華な宿は極力避けた。

 もちろん女性二人がいるので安宿は避けたが、出来るだけ質素な宿に泊まった。

 お金が無くなると。冒険者として討伐依頼を受けて次の宿代を稼いだ。

 

 こうして俺達は遂にカルルク帝国の首都ベラサグンに着いた。


 首都ベラサグンは今まで見たオアシス都市とは別格に大きかった。


 それもそのはずで、ここで砂漠地帯は終わりだからだ。

 近くの山脈から大きな川が流れており、緑豊かな土地になっていた。


 高い城壁に囲まれた帝国の首都は、壮大な川のほとりに広がっている。


 皇帝の宮殿もあるため、警備は厳重だ。

 入り口には門番がいたし、荷物検査のための関所もあった。


 セバスティアーナさんは門番に通行許可証を見せ、俺達の手荷物を簡単に確認すると直ぐに通してくれた。


 俺達は中央通りを一直線に宮殿に向かう。まずは皇帝に面会の約束を取り付けるためだ。


 都市の中心に位置する広場からは、大きな川がゆったりと流れている様子が見渡せる。水路は街を縦横に貫き、美しい橋がその上に架かっている。

 都市の川岸には美しい建物が立ち並んでいる。壮大な宮殿や高層の塔がそびえ立ち、その反射が川の表面に揺らめいている。


 川には多くの船が行き交っている。カルルク帝国では馬車が少ない代わりに船が貨物の運搬に使用されている。


 グプタとも違った異国の風景に俺達は若干の観光気分ではあったが。

 今から行く宮殿をみると緊張感が増してきた。


 セバスティアーナさんがいなければ、絶対に宮殿に立ち寄ることはなかっただろう。


 セバスティアーナさんは宮殿の門前に到着すると。衛兵に身分証の様な物を手渡した。

 衛兵の一人は慌てて宮殿内に入ると。すぐに身分の高そうな人が外に出てきた。


 彼はセバスティアーナさんを見ると丁寧にお辞儀をした。

「ようこそ、予想よりも早いご帰還、相変わらずですな」


「はい、彼らと会ったのは西グプタでしたから、予想よりも行程を短縮することができました」


「陛下への謁見ですが。さっそく明日でいかがでしょうか?」


「あら、それは素早い対応ですね。皇帝陛下はお暇なのでしょうか?」


「いえいえ、それだけ優先順位がたかいということです。なんせエフタル事件を目撃した唯一の生き証人なのですから。さ、立ち話もなんですから中でお茶でもどうですか?」


「いいえ、それには及びません。明日面会できるなら今日する話はございませんので。それに、今日の宿もまだですし。お二人は観光したいご様子ですのでこれで失礼します」


「はは……、相変わらずつれないですな」


「これがいつもの私ですのでお気になさらず。ではまた明日」


 俺達は目の前のおそらく帝国で要職を努めているであろう、四十代と思われる男性に会釈をし、セバスティアーナさんの後に続いた。


「あの、セバスティアーナさん。随分冷たい対応でしたけど、あの人は何者なんですか?」


「ああ、彼はストーカーですね。でも仕事は出来るので皇帝陛下の側近にまで上り詰めた大したストーカーです」


 ストーカーって二回言った。なるほど、たぶん嫌いなんだな。


「ふーん、そうなのね。いくら優秀でもストーカーは最低だわ」

 誤解かもしれないのにな。

 まあ俺達には初対面の人だから最初から色眼鏡でみるのは良くないだろう。


「では、これから宿に参りましょう。ここでの滞在費は後で皇室の予算から出ますので、せいぜい良い宿に泊まるとしましょうか」


「やった。私お風呂付で、洗濯機がある宿がいいわ」


「ふふ、洗濯などしなくても勝手にやってくれる宿もあるのですよ?」


「えー、洗濯機がいいのよ。あれは面白いじゃない」


「分かりました。ではそのようにしましょう」


 ということで俺達は貴族御用達の高級宿ではなく。

 ハイクラスの冒険者に好まれる、ほどほど豪華な宿に泊まることにした。


 まだ日が明るい、せっかくのカルルク帝国の首都なのだ。いろいろと散策することにした。


 四人で。……そう、もう一人がなぜか観光に加わっていた。


「やあ、偶然だなぁ、今日の午後は仕事がなくてね。せっかくだから君達に首都の案内でもしようじゃないか」


 先程の皇帝の側近さんが俺達になぜか合流してきた。

 なるほど理解した。この人はストーカーだ。


「せっかく栄えあるカルルク帝国の首都ベラサグンに来たんだ。君達にはぜひこの街の交通機関である渡し舟に乗ってもらおうじゃないか」


 俺達は、市街を縦横に走る運河を結ぶ手漕ぎのボートに乗って街並みを観光することになった。


 これまで道中はずっと砂漠だったのに、ここは水が豊富だ。


 渡し舟に乗ると、涼しい風が顔を撫でるのを感じた。

 水路沿いに並ぶ建物の彫刻が水面に映り、不思議な模様を作っていた。


 所どころに水上マーケットもある。

 なるほどカルルク帝国では馬車が主力の移動手段になっていないため、いちいち陸にあげて露店にする必要性がないのだろう。


 もちろん、陸にもお店はあるし、全てがそうではない。あくまで露店の代わりという位置づけだろう。


 他にもいくつか観光して回ったが、ストーカーさんはそこまで変質者ではない。

 適切な距離感を保っているし、俺達にもしっかりと会話をしてくる。


 そして、そこまで積極的にセバスティアーナさんにアプローチしている訳でもない。

 ぱっと見は紳士そのものだ。


「なあ、シャルロット、彼はほんとにストーカーなのか? 普通に面倒見のいい人に見えるけど……」


「へぇ、ならカイルの目は節穴ね。あれはなかなかにキモイわよ? それにセバスティアーナさんはさっきからゴミを見る目をしているじゃない」


 気付かなかった。うーん、聞くんじゃなかったな。

 そういえばストーカーさんの名前を聞くのを忘れていた。


 まあ、明日は皇帝陛下に謁見がある。そのときにでもあらためて聞くとしよう。

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