第18話 川岸にて②
夜になった。
昼間とは違って気温はぐんと下がった。
どちらかといえば寒いくらいだ。
「なあ、シャルロット。着る服が無いのはさすがにやりすぎじゃないか?」
「そ、そうね、でもお魚、美味しかったわね。私、誤解してたわ、魚を塩で焼くだけであんなに美味しいなんて思わなかった」
たしかに、獲れたての魚は臭みがなく、焼くだけで美味しかった。
だが、今はそういう話ではない。着る服がない事に文句を言っているのだ。
シャルロットは全ての服を洗ってしまったのだ。
俺達はテントの中でブランケット一枚で夜を凌ごうとしている。
「ご、ごめんなさい。水が気持ちよかったし、天気も良かったから直ぐに乾くと思ったの」
思ったのはいいが、乾くはずがない。
それに川岸がここまで寒くなるとは予想外だった。
「い、今から火の魔法で、乾かすのもいいじゃない?」
「だから、それはさっき言ったろ。火の魔法は瞬間的に燃やすだけだって。薪も無いし。そうだった、俺達は甘えていたんだ。普通、野営には薪を用意するのは常識だ。夜通し火を焚いて魔獣を近づけないようにするんだ。
そうしていれば、服だって乾くだろう」
「待ってよ、そんな服、洗う前より煙臭くて着れないわよ」
だよな、洗う前より臭いのは俺も嫌だ。
日が落ちるまでは、ブランケット一枚でも何とかなった。だが今は無理だろう。思ったより気温が低い。
「せめてもう一枚あれば、何とか夜は越せるんだが」
「そうね、ないものはしょうがないわね。って、あるじゃない! もう一枚……」
シャルロットは俺のブランケットに視線を移す。
「おいおい、俺のを奪うなんて許さないぞ! 俺が死ぬだろうが!」
「馬鹿ね、違うって。頭を使いなさい。人類は道具を共有することができるのよ。だから……二人で……その、ブランケットを二重に重ねれば暖かいっていってるのよ……」
「シャルロット、それって、おい! 俺達は裸なんだぞ? それに俺は男で……って俺は何言ってるんだ」
シャルロットは顔を赤くする。
「ば、馬鹿、そんなこと言わないでよ。私だってそれくらいの知識はあります。でも緊急事態よ。いいわね? お互い明日になったら忘れるのよ。私は貴方を信じてるから」
「あ、ああ、ごめん、緊急事態だな。そうだな、よし、明日になったら俺は忘れるとする。正直もうヘトヘトだ。寝るとしよう」
「う、うん。じゃあ、明かりを消すわね。そうすればお互い恥ずかしくないでしょうし」
テントに暗闇が訪れる。だが月明かりのせいで真っ暗というわけではない。お互いのシルエットは確認できるほどであった。
「ちょっと、ブランケットがずれてる、綺麗に重ねないと凍えてしまうわ」
「明かりを消したからよくわからないだろ」
「ほら、こっちよ。これで大丈夫。……じゃあ、隣に……お邪魔します」
「お、おう」
二枚重ねにしたブランケットをめくり、シャルロットが俺の隣に入ってくる。
彼女の素肌が俺の右半身に触れる。
温かい。確かにこれなら暖を取れそうだ。だが、俺は心臓が張り裂けそうだった。余計に体温が上がっていく。
「カイルの隣、暖かい。これならぐっすり眠れそうだわ……」
俺の気も知らないで、いや、明日には忘れる。そういう約束だ。
俺はしばらくは寝付けなかった。
横で寝返りを打ったり、もぞもぞと動かれると、どうしても意識してしまう。
やがてシャルロットが気持ちよさそうに寝息をたてると。
俺もそれにつられて眠気が襲ってきた。
シャルロットの素肌から伝わる温もりも相まって、俺はあっというまに眠りに落ちた。
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