1-16 いざ、楽しい休日へ
「お待たせ。ごめんね遅くなっちゃって」
「平気ですよ」
情報屋との通話を終えた直後、同じく団体客の会計を済ませた遠乃先輩が
店の奥へと消えしばらく。
店内から私服姿に着替えた先輩がパタパタと足音を鳴らせやってくる。
「それじゃあ、行こっか」
「はい」
そうして伝票を持つ席を立つ。
「あ、会計ならもう済ませてあるから大丈夫だよ」
「なんですと」
彼女のその言葉に俺はポケットから取り出しかけた財布を持つ手を止める。
「待たしちゃったお詫び」
「そんな、悪いですよ」
「いいのいいの。今日だって私が無理やり誘ったようなものだし。
司くんは気にしなくていいのよ」
「そう、ですか?」
「…………。ならお昼ご飯は俺に奢らせてください」
「え、でも」
「形だけとはいえデートはデートです。ならせめて初デートの今日くらいは
男の俺に出させてください」
「うーん、そういうことなら、お願いしよっかな」
「はい。喜んで」
そうして先輩はバイト仲間からの意味深な笑顔い手を振りながら俺と共に
店の外へと出る。
「先輩はお腹空いてますか?」
「割とガッツリと」
「なら先にご飯にしましょうか。どこか行きたいところありますか?」
「司くんにはないのかい?」
「俺は先輩の行きたいところがいいです」
「いいのかい?」
「えぇ。一応俺も近くの店は調べてありますけど、出来るなら先輩の好きな店が
知りたいです」
「そういうことなら私のお気に入りの店を特別に教えてあげちゃおうかな」
「期待してます」
◇
そうして洋食屋『パレット』から歩くこと数分。
俺たちは人が行き交うメインストリートを通り抜けた先にある小さな
ケーキ屋へとやって来ていた。
なんでもここは先輩の一番のお気に入りの店らしく、ケーキ屋でありながら
お昼時にはランチもやっているそうでそれが結構な人気を博しているらしい。
「いいお店ですね。流石は先輩のオススメの場所だ」
「ふふーん、そうでしょそうでしょ。私一押しのデートスポットなんだから」
お昼時を過ぎたせいか店内にはいる客はまばらで、オシャレな雰囲気も
相まってか客層も良く、店内にはゆったりとした時間が流れていた。
事前にレジにて注文と会計を先に済ませる形式らしく、席についてしばらくは
まるで昨日のやり取りはなかったかのように、お互いに他愛無い会話を続ける。
それはテーブルに事前に注文していたランチセットが来てからも変わらず。
俺たち二人はデートらしい楽しい時間を過ごしていた。
「そういえば司くんはもう学園には慣れたかい?」
「最近やっとカリキュラム制度に慣れたところですね」
「あーそういえばうちの学園、二年生から急にカリキュラム制になるから
結構戸惑う人多いのよね」
「俺も最初は驚きましたが、案外何とかなるもんですね」
「最初の授業は自分で決めたの?」
「一応希望を出してその後に生徒会によって調整してもらったって感じです」
「ふーんそうなんだ、はむっ」
モグモグと先輩はランチを口へ運び咀嚼する。
それを見て俺も会話の邪魔にならない程度に食事を進める。
「でもカリキュラム制度だと中々友達はできないんじゃない?」
「そうですね、でも代わりに学年委員の二人がよく気に掛けてくれますね」
「二年の学年委員って確か、初風愛唯ちゃんよね?」
「知ってるんですか?」
「少しだけね。偶に魔導師科の方にも様子を見に来てくれから覚えてたの」
「へぇ」
さすがは初風。軋轢のある魔導師科にも顔を出すなんて相当なお人よしだな。
なんて思いつつもまぁ、あの性格と学年委員という肩書がある以上、
報復されたりするようなことはないだろうしそこは安心と云えるだろう。
「もう一人、栢原ってやつがいるんですがそっちは知ってますか?」
「男の子の方ね。そっちは名前は知ってるけど直接会ったことはないわね」
「そうですか」
「なに、もしかして仲いいの?」
「それなりです。でもこの前は一緒にラーメン屋に行きました」
「えー意外。司くんってそういう人との馴れ合いってあんまりしないイメージ
だったんだけど」
「そうですか?」
「うん。前は何というか、もっとこう一匹狼みたいな感じだったし」
「あー確かに。先輩に会う前はそんな感じだったかもしれませんね」
「そうそう。あの時は随分目つきも悪かったしね。あ、それは今もかな、ふふっ」
口元を抑え笑みを浮かべる先輩。
そんな先輩に対し俺も自然と笑みがこぼれる。
「あの時の俺はまだ自分が優れている人間だと自惚れてた時期ですからね。
お恥ずかしい限りです」
「でも私と会ってからは落ち着いてたわよね?」
「それは偏に先輩のおかげです。先輩が諦めずに何度も話しかけてくれたから
俺は今こうして人と笑い合えるようになったんです」
「あらやだ、可愛いこというじゃない」
そういうと先輩はカチャリと持っていたフォークを皿の上に置き、
噛みしめるようにして言葉を続ける。
「そっか。そうだよね。私が中学を卒業してもう二年だもんね。
そう考えると司くんと会うのは三年振りなワケだしそりゃ考え方も
変わってるよね」
「いけないな。私はまだ君のことを中学時代のままだと思っている節が
あるみたいだわ」
と、彼女は髪を耳元まで搔き上げ瞳を潤ませる。
その様子に俺は不意にドキリと鼓動を高鳴らせる。
「(――――?)」
「どうしたの?」
「いえ、なんでもありません」
覚えのない感情を抱いたことに一瞬の戸惑いを垣間見せつつも、
俺は再び彼女とのデートを楽しむのであった。
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