1-02 二人の学友
翌日、僕は昨日の九里賀谷桐花との予期せぬエンカウントを有坂さんに
報告を済ませると朝の準備を済まし家を出る。
季節が春ということもあり、通学路には桜が立ち並び、風にさらわれた
花弁がひらひらと地面へと舞い落ちるのを眺めながら学園へ。
すると学園内に入って校舎の入口。
丁度下駄箱の辺りで不意に声を掛けられた。
「おはよう、最上君」
唐突の挨拶に気後れしつつも、振り返りその人物を見つめる。
一瞬、九里賀谷桐花かとも思ったが、それは間違いで。
女性という面は共通していても明らかな別人であった。
「どちら様でしょうか」
「はじめまして。私、学年委員をしている初風愛唯っていいます。
生徒会より転校生の面倒を見るように言われてるっていわば分かるかな?」
「――――なるほどあなたが」
学年委員。
生徒会より各学年の模範的な生徒の中から男女一名ずつが選出され、
生徒たちへの様々な奉仕活動を任されている外部役員。
その業務内容には転校生のケアも含まれている為、いずれ接触してくるで
あろうとは思っていたがこうも早いとは驚きだ。
「ということは初風さんも魔術師科の二年生?」
「そうだよ。だから困ったことがあれば何でも相談してね」
「そうさせてもらうよ」
どうやら初風さんは随分と明るい性格の人物らしく、屈託のない笑顔を
浮かべてくれる。任務とはいえこういった感情を向けられるのは素直に
嬉しく思う。
「ところで最上君はカリキュラムの登録は済ませてあるんだよね」
「あぁ。入学前に一通り」
「それじゃあ、安心だね――――とそうこうしているうちにもう一人も来たね、
おーい柏原!」
初風さんが手を振り上げ、誰かを呼び止める。
「紹介するね。私と同じもう一人の学年委員の栢原仁」
「やぁやぁどうもどうもー」
栢原と呼ばれた男は僕らの前で立ち止まりペコリと頭を下げる。
「栢原、こちら今日から転校してきた最上司君」
「あーこれはこれは。栢原です、どうぞよろしく」
「あぁ、よろしく」
初風さんの時とは違い、服装や仕草から全くと言っていい程に真面目な雰囲気の
ない栢原に何とも言えない不思議な感覚を味わう。
「あ、ちなみに同い年だから、私たちに敬語とかは必要ないからね。
気安く初風でも愛唯でも好きなように呼んでね」
「じゃあ、とりあえず初風で」
「うん。それじゃあ、栢原、あとよろしくね」
「えー丸投げかよ」
「文句言わない。最初は同性同士の方が何かとやりやすいでしょ」
「まぁ一理あるな」
「そういうことだから。それじゃ、最上君またね」
「ああ」
そうして初風は女性らしい小さな手をひらひらと振り、校舎内へと消えていく。
「さて、んじゃ俺たちも教室に向かうか」
「そうだな」
栢原に案内され廊下を進む。
「ところで転校生君はあだ名とかあったりするのかな」
「……特には」
「そうか。なら仲良くなる為にも司って呼ばせてもらってもいいかな」
「構わないよ」
「だったら俺のことも気軽に仁って呼んでくれ。その方が慣れてる」
「分かった」
俺が了承すると仁は気を良くしたのか自然と広角を上げる。
「いいやつだな、司って」
「――ん? そうかな?」
「そうだろ。俺は人を見る目だけは自信があるんだ」
そういう仁の表情には一切の曇りがない。
本気で言っているのかこいつ?
もしそうだとしたらとんだ節穴だ。
俺はいいやつでも、ましてや真っ当な性格ではない。
こういう仕事をしているせいか俺は人を利害関係でしか判別できず、
打算的な行動しか取れないつまらない人間だ。
少なくとも本来、仁や初風のような人間とは一緒に居ちゃいけない
人種なのは間違いない。
「ついたぞ」
廊下を歩いてしばらく。
俺たちは目的の教室へと到着した。
「案内ありがとう、助かったよ」
「これも学年委員の仕事だから気にするな。それに俺も司と似たような
カリキュラムを取ってるからこれからも遠慮せず頼るといい」
「いいのか?」
「当然だ。なんせもう俺たちは友人だろ?」
と、仁は恥ずかしげもなく真顔で言い放つ。
その隠し切れない善良性に当てられつつ、良好な関係性を築く為に俺も
その言葉に同意。
図らずとも学園初日で俺は無事、友人を獲得することに成功した。
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