向かえ「王都イシュタム」編

第135話 ルードちゃん、独りごちる

 【まえがき】


 今回は登場人物と状況のおさらいみたいな感じなので、流し読みしていただいてOKな感じです。よろしくお願いします。てことで新章スタート!


 ────────────



 僻地の街メダニアと王都イシュタムのちょうど中間に位置する宿場町、ザガ。

 町の上にずっと動かない不動の雲があることから「雲留町クラウド」と呼ばれるそこに騒がしい一団が訪れた。

 アベル (女の子ネーム:ルード)たち一行である。



「七人で泊まれるらしいです!」


 神官のラルクくんが満面の笑みで戻って来る。


「部屋はいくつ?」

「あっ、聞いてないです」

「はぁ……ったく。ほんっと使えないわね、このポンコツ神官」

「まぁまぁ、ラルクさんは頑張ってくれてます。いつもありがとうございます、ラルクさん」

「い、いえ、とんでも! 今すぐ戻って二部屋あるか聞いてきま~す!」


 リサ。ラルクくんをなじる彼女は元バンパイア。

 そのリサを諌めるルゥは元ゴーゴンだ。

 どちらも元魔物。

 で、今はどちらも人。

 二人とも魔界で囚われていた僕によくしてくれた子だ。


 まぁ、リサに関しては洗脳したり色々あった。

 彼女に片思いしてるウェルリンっていう狼男を巻き込んだり……。

 でも最終的には魔物であることを捨てて、人として僕に着いてきてくれた。

 僕も僕で人間界に戻るために仕方なかったとはいえ、いざ人間界に戻ってきた今となってはちょっと後ろめたさを感じる。


 一方、ルゥは最初から僕に好意的だった。

 見たものすべてを石へと変えてしまう彼女の常時発動型パッシブスキルを彼女は「呪い」と考えていて、人となって魔界を去ることが夢だったからだそうだ。

 で、結果的に僕のスキル『吸収眼アブソプション・アイズ』によってその夢を叶えてあげることになった。

 それ以降とくに彼女は僕のことをちょっとたまに引いちゃうくらい妄信的に信頼して支えてくれている。


 と、すごく事情の入り組んだ二人なんだけど、二人とも僕のことを好いてくれてる。

 そして僕も二人には好感を抱いている。

 いずれ彼女たちの気持ちにもちゃんと向き合わなきゃいけない。

 けど、諸々の厄介事──例えばテスを魔王に会わせたり。イシュタムの出版社に閻魔の原稿の確認に行ったり。地獄で会ったミフネの母の言ってたこと(元パーティーメンバーのミフネが辻斬り犯)も気になったり──なんかを片付けてからにしたい。


 だって、じゃないと二人に失礼じゃない?

 あ、それから二人が安全に暮らせるように環境を整えてあげるのも人間界に連れてきた僕の役目だ。

 うぅ……やらなきゃいけないこと多すぎるな、僕……。


 っていうか、そもそもの話なんだけどさぁ……。

 僕、いま女の子……なんだよね。


 元々はアベルという名の男の子だった僕。

 それがたまたま「鑑定士」というレア職業に就いたばっかりに魔界に連れ去られて、そこで「フィード (餌)・オファリング (供物)」と名付けられて。

 んで、実際にその「フィード」なる冷酷な人格が僕の中に生まれて。

 で、そのフィードと僕アベルの二人で力を合わせて魔界を脱出してきて。

 僕、アベルだけの力じゃ脱出できなかったし、フィードだけでもダメだった。

 僕とフィード。

 二人で力を合わせたから、どうにかこうやって人間界へと舞い戻ることが出来たってわけ。


 そして人間界に戻ってきた僕こと「アベル・フィード・オファリング」は、神ゼウスによって「アベル」と「フィード」に分裂されちゃったんだ。 (これまたややこしい!)

 で、肉体を追い出された僕 (アベル)は教会の屋根裏にいた蜘蛛の肉体に憑依してどうにか一命をとりとめて (蜘蛛さんごめん!)。

 そして蜘蛛に憑依した僕ことアベルは、ゼウスに狙われないように、かつてドッペルゲンガーに見せられた絶世の美女「アイドル」という職業の少女に『変身トランスフォーム』してるわけで。

 あっ、ちなみに名前も変えて「ルード」と名乗ってる。


 う~ん、我ながらややこしすぎる……。



 【説明図】


「アベル」

 ↓

「アベル・フィード・オファリング」

 ↓         ↓

「アベル」 「フィード・オファリング」

 ↓         ↓

「蜘蛛」 「フィード・オファリング」

 ↓         ↓

「ルード(女子)」 「フィード・オファリング」



 わずか四十日やそこらで僕、色々変わりすぎ!


 というのも、僕が神と魔の繰り広げるゲームのコマだからこんな目に遭ってるんだよね……。

 そのゲームのプレイヤーの片方『魔神サタン』は僕とフィードでどうにか倒して、今は僕アベルの体内でかろうじて生き延びてる状態。

 本当なら僕をコマにしてたバカヤローなんだからペッ! して消滅させたいところなんだけど、魔神と対を成して僕を弄んでた『頂上神ゼウス』ってのが今、僕たちと同行しててさ……。

 そのゼウスを倒すために、そしてゼウスによって天界に囚われてる僕の片割れ「フィード」を助け出すために、仕方なくにっくき魔神サタンを体内で飼ってるってこと。

 まぁサタンも実際役に立ってるっていうか、『絶壁クリフ・ブラセル』でワイバーンを倒して力尽きた僕を助けてくれたりしたしね。

 あんまり無下にも出来ないっていうか……信用は絶対に出来ないんだけど、今は運命共同体として一緒に過ごさざるをえなくなってる。



「なんでもいいから早く休みたいですわぁ~。馬車ってのはどうしてあんなに揺れますの? ケプの方がはるかに乗り心地がよかったですわぁ~」


 そう言って足を引きずるように歩いてるのは人化したセイレーンのセレアナ。

 いつもはいい加減な感じの彼女だけど、キメるとこではバチッとキメる。

 なかでもスキル『美声ビューティー・ボイス』を操る彼女の扇動アジテート能力の効果はものすごい。

 魔界で僕に対するイジメが減るきっかけになったのも彼女の鶴の一声からだった。

 特に僕の命運を決める校庭での◯✕ゲームの時。

 彼女の気高く芯のぶれない発言は、ワイバーンのウインドシア以外全員の心を動かした。

 あの時のセレアナの言葉があったからこそ、僕もクラスの魔物たちを信用してその後のダンジョン踏破に臨めたようなものだ。


 けど、その扇動アジテート能力も変に使われることもあってさ。

 例えば三日前、僕らが僻地の街メダニアを発つ前日。

 人々がワイバーンを倒したことを祝って街中で宴会を行ってた最中。

 セレアナはこっそり魔界側に行って、なんか下級モンスターたちに吹き込んでたらしい。

 え~っと、たしか……。



 一、壁を壊したのはフィード・オファリングだと吹聴。

 二、ここに人魔共に暮らすフィード・オファリング公国を作る予定と吹聴。

 三、だから人を襲ったりせず、これからは共存の道を歩むようにと吹聴。

 四、そして私専用の素晴らしいステージを作るようにと吹聴。



 吹聴&吹聴。

 なんだよ、フィード・オファリング公国って……。

 あんまり勝手に変なこと言いふらさないで欲しい。

 彼女のスキルの凄さを知ってるだけに不安。


 あ~、それからセレアナは僕やリサ、ルゥと同じ年なんだけど、見た目は一番大人っぽいんだね。

 今も豊満な肉体のラインがくっきりと出る青いロングドレス姿の彼女はめっちゃ目立ってる。

 旅をする服装でもないからここまで乗ってきたメダニアからの乗合馬車の中でもジロジロ見られてたし……。

 そしてセオリアって僕を認めてはくれたものの、基本的に人間を見下してる (というか魔物全体がそういう傾向にある)から人間からいくら見られててもあんまり気にしないみたい。

 本人が気にしなくてもこっちが気になるんだよね……。


 彼女にとってのこの人間界の旅は言ってみれば「歌手セレアナ・グラデンの全国ツアー」。

 メダニアの街でも高らかに歌ってたし、色んな地域を回ってファンを増やしたいみたい。

 この貪欲さがあれば、いつかは本当に彼女が口癖のように言っている「世界の歌姫」というスケールのデカすぎる夢も叶っちゃうような気もしてくる。



「これが『雲留町クラウド』……。やはり生で見ると差異が明確。周りの雲が流れていくのに一塊だけ雲がずっと留まっている様はまさに奇妙キテレツ。本で知ってたが、やはりこの実際見た時の驚きは文字では表しきれぬ。やはりルードに着いてきて正解だった」


 このこまっしゃくれた言葉を発してるのは小さな少女、テス・メザリア。

 彼女は僕を監禁し、食料にしようとしてた老いた大悪魔だ。

 僕にとっての魔界側の悪の黒幕。

 だったんだけど……今はご覧の通り可愛らしいロリロリ少女だ。

 メダニアであつらえたお洋服も相まって、おそらくその筋の人が見たらニヤニヤが止まらないであろう少女特有の美しさを醸し出している。

 とくに産毛がそのまま伸びたような繊細かつしなやかな金色の髪の毛は、視界に入るたびに思わず見とれそうになる。

 そしてこのぷにっぷにのほっぺたを指でつんつんしたい衝動が……いやいや、しないけどね! うん! 僕の沽券にかけて!

 大体さぁ、見た目は可憐な少女でも中身は頭の固い老悪魔なんだ。

 外見に惑わされちゃいけないわけで。

 本人曰く「悪魔族序列一位」らしいし。

 死んだら次の大悪魔を生み出すべく巨大な地下迷宮へと変貌しちゃうし。

 ま、とにかくヤバい悪魔ってこと!

 で、彼女は僕に倒される前の大悪魔シス・メザリアの心残り「魔王に会う」という願いを叶えるために、こうして僕に着いて人間界へとやってきている。


 ちなみにテスの体には『偽モモ』という魔王サタンの魔力の残滓が宿っている。

 この偽モモが宿ってないとテスの体が地下ダンジョンで分裂したあれこれで崩壊しちゃうらしい。

 ただ、長時間一体化してても定着しちゃうため、たまにテスの体から偽モモがニュッと生えてきて一体化をリセットしてる。

 僕はそれ見るたびにギョッとしちゃう。

 だってちっちゃい女の子から女の子は生えてくるんだよ?


 あ~、そうだそうだ。なんで彼女のことを『偽モモ』って呼ぶのか。

 僕の幼馴染に「モモ」って子がいるんだけど、この魔神の魔力の残滓が幼馴染のモモそっくりな姿形になってるんだよね。

 なんでも僕と相性が超奇跡的に相性がいい遺伝子? とかいうのの配列? らしい。

 で、モモと同じだからこの偽モモはモモと同じスキルまで使えちゃう。


聖闘気セイクリッド・オーラ


 このスキルは魔神サタンを倒す時の必殺の一撃になってくれた。

 そんな偽モモから、僕は「マスター」と呼ばれてる。

 しかも僕の命令に絶対服従。

 モモの見た目で従順なんだからちょっと調子が狂う。

 本物のモモはずっと僕を引っ張ってくれてたのに。

 っていうか、この偽モモ。

 僕の言う事を忠実に守りすぎてて融通が効かないことも多々。

 あまりにも従順すぎてむしろちょっと抜けてる子な印象。



「聞いてきました~! 二部屋あるそうで~す!」


 人の良さそうな──というか実際人の良い神官ラルクくんがニコニコ顔で戻ってくる。

 彼は僕たちが魔界の地下ダンジョンから脱出してる最後の段階で出会った神官くん。

 しかもメダニアの教会に僕たちを泊まらせてくれてたどころか、なぜか僕たちの旅にまで同行してくれてる。

 どうやら僕たちの中に好意を寄せてる人がいるらしい……んだけど、それがテスっぽい雰囲気を漂わせててちょっと不安。

 ああいう人畜無害な人がそういう趣味だったらちょっとショック。

 どうか違うことを祈る。

 というか食われちゃうよ、人間が大悪魔になんて恋したら。


 それにラルクくん、わりと言うことがコロコロ変わるんだよね。

 情緒不安定?

 まぁ年頃の男の子だし。

 僕も情緒どころか人格が生まれたり、切り離されたり、取り戻そうとしたりしたりしてるわけで、あんまり人のことを言えた義理じゃない。



「あ~、なんで部屋数を聞いてきちゃうかのぅ! 聞かんでええのに! 一緒の部屋でいいのに! ワシは愛しのルードちゅわ~んと一緒に寝たり着替えたりしたいのに!」


 シンプルに言ってきしょいと感じてしまうのは、僕がいま女の子の姿になってるからだろうか。

 頂上神ゼウス──が人の姿をとったもの「ゼノス」。

 なにやら僕がスキルで模してる「アイドル」なる人間に大昔に恋をしたことがあったそうで……。


 え? そんな偶然ある?


 う~ん、まぁ実際にこうしてあるんだから仕方がない。受け入れるしかない。


 というわけで僕はゼウス──ゼノンに付きまとわれながらイシュタムを目指して旅してるってわけ。

 けど結果オーライ!

 だって僕がこうしてゼウスを引き止めていれば、それだけ天界にいる僕の片割れ「フィード」の脱出が成功する可能性が高くなるわけだからね!

 ってことで頑張れ、フィード!

 もうキミと僕とで二つで一つなんだから、絶対また一緒になろうな!


 というか。

 僕のことを好いてくれてるリサとルゥ。

 彼女たちが好きなのって主に「フィード」の方なんだよね……。

 だからフィードと一体にならないことには彼女たちに対して真摯に応えることも出来ない。たぶん。

 なので余計に一体化しないとだ。


 ……肉体もフィードの方に持っていかれてるしね。

 これがなにげにショックでさ……。

 え? 本体ってフィードの方なの? 的な。

 元々アベルこと僕の体だったんですけど? 的な。

 今は蜘蛛さんの体を借りて女の子に『変身トランスフォーム』してる僕の立場って一体……的な。

 スキルもステータスも大幅に減っちゃってるわけでさぁ……。


 それに。

 僕の最終的な目標は。


『鑑定士をコマにして弄んでる魔神サタンと頂上神ゼウスを倒し、平穏な生活を送る』


 なわけで。

 となるとゼウスを倒すためにフィードを取り戻すことが必要不可欠なわけで。

 今はゼウスのなんちゃらバリアみたいなのでスキルが弾かれちゃう。

 魔神サタンを倒したときのような奇跡も僕だけじゃ今は起こせそうにない。

 フィードとまた一つになって完全体にならないと「対ゼウス戦」はスタートラインにも立てそうにもない。


 で、そのフィードと合流するために僕らが天界に行く手がかりがイシュタムにあるらしい。

 というわけで、僕ら一味はこうしてイシュタムとの中間地点ザガの町へとたどり着いたわけなのです。



 それから、最後に。

 僕らが──いや、僕がイシュタムを目指す大きな理由。

 それは、幼馴染のモモ。

 子供の頃からずっと僕を守ってくれてた彼女。

 絶対心配してるはず。

 すっごく優しい子だもん。

 早く顔を見せて安心させてあげたい。

 もちろん両親にもね。


 あと、今もまだモモとパーティーを組んでるはずの侍「人斬り」ミフネ。

 人間を斬りに斬りまくった挙げ句、自分の母親まで斬っちゃったっていう心底イカれた奴。

 僕も一時期一緒のパーティーにいたのに全然気づかなかった。

 心配だ。

 一刻も早く忠告してあげないと。


 と同時に。

 イシュタムへの距離が近くなればなるほど気づく。

 モモへの気持ちが強くなってる自分に。

 リサとルゥ。

 彼女たちへの返事をちゃんとするためにも、僕はモモに会わなきゃいけない。

 きっと、僕の初恋の相手だったはずの彼女──モモに。



 ドッゥン──────ゥ!



 空、上空に留まり続けている雲の中から怪音が鳴り響く。


 なんだろう、もしかして天界でフィードが暴れてたりして。

 そういえばフィード、僕の『一日一念ワールド・トーク』に全然返事しないけど大丈夫なのかなぁ。

 そして僕のことをたぶん大好きでいてくれてるローパーの女王『パル』。

 彼女からの返事も途絶えてるのも気になる。


(あれ……? もしかして僕、みんなから嫌われてたりする?)


 そんな僕の内心を察してか察せずか、リサとルゥが僕の腕を両方から抱きかかえる。


「ルード、な~に暗い顔してんの! 今日はここでゆっくりするんだから一緒に町を見て回りましょう!」

「じゃあルードちゃんをはんぶんこしましょ~! 一時間毎に交代で~」


「え~、ちょっと……そんなにくっつかないでよ……!」


 ぎゅうぎゅうのぷにぷに。

 自分の体が女の子なこともあってぷにぷにパラダイスで一瞬わけがわからなくなりそうになる。

 僕はまだ自分の身体──女体に慣れない。


「いいじゃない! でなに照れてるのよ!」

「うふふ~、そうですよ~。楽しみましょ~ね~、ルードちゃん♡」


「吾輩もルードと一緒がいい」

「あらぁ~、じゃあみんなで一緒に回ればいいじゃありませんこと~?」


 テスが僕のミニスカから覗くパツパツの太ももにしがみついてきて、セレアナが周囲からの注目を浴びながら歌うように告げる。


「それなら結局いつもと一緒ってことじゃないですか~! なら僕もいっしょに……」


「神官ラルクとゼノスは荷物を宿に運んどいて欲しいですわ~」


「ハッ、わかりました! セレアナさんのために! この神官ラルク、完璧に荷物を宿に運んでおきます!」


「むぅ~、つまらんのぅ~。ワシもルードちゅわんといちゃこらデートしたいんじゃがのぅ……」


「あっ、ゼノス! 僕たちの荷物を漁ったりしたら宣言通り僕死ぬからね!」


「うぅ……相変わらずの生殺しじゃのう……。こりゃ、ラルク! お前がもっと頑張ってルードちゅわんにワシの魅力をアッピールせんからじゃぞ!」


「えぇ~!? 僕、精一杯やってますよ~!? これまでもゼノスさんの筋肉アピールのために持ち上げられたり、崖に咲く珍しい花を摘むために吊り下げられたり、これ以上ないくらいに貢献してると思うんですが!?」


「足り~ん! 全然足りんのじゃ! もっとルードちゅわんが心ときめかせるような……。そうじゃな、例えば闘技大会で優勝するとか、イケメンコンテストで優勝するとか、ベストセラー作家になるとか、魔王を倒すとか、それくらいせんか~い!」


「えぇ~!? めちゃくちゃ言わないでくださいよ! 僕、ただの下っ端神官なんですから!」


「くぅ~、使えん! 使えんのう! って、こうして貴様と言い合ってる間にルードちゅわん達がいなくなっとるじゃないか! お~んおんおん、ルードちゅわ~ん!」


「ったく……ゼノスさんはこないだまで浮浪者だったくせに贅沢言い過ぎなんですよね……。いいですか? まず色欲を経つことから信仰の道は始まってまして……」


「だぁぁぁぁぁ! うっさ~い! このワシに説法をかます馬鹿がどこにおるか~!」


「えぇ~、このワシって一体何様なんですかゼノスさん!?」


「神様じゃ!」


「なわけないでしょう! 不敬にもほどがありますよ! ほら、この荷物持ってください! いいですか? まず星光聖教スターライトせいきょうの最初の教えは……」


「あ~、うるさいうるさいうるさ~い! ルードちゅわ~ん!」


 雲の上も下もうるさい、ここザガの町。

 僕ら一同は今日も変わらず複雑かつ賑やかに旅路を進め──っと。忘れてた。

 もう一人、旅の同行人が。


 ピンッっと僕の頭の上。

 ツヤッツヤのアイドル、ルードの黒髪の上に人差し指を近づけると。


 ぴょんっ。


 一匹のふかふかした蜘蛛が飛び乗ってきた。

 この蜘蛛くん、どうやらメダニアからずっと着いてきたらしい。

 乗合馬車のなかで気づいたんだけど、乗り合わせた商人さんによると蜘蛛は幸運を運ぶ生き物らしいので途中で捨てたりせずに一緒に連れて行くことにしたんだ。


 というか、妙に僕に懐いててずっと頭の上に止まってるんだけど……。


 僕の元が蜘蛛だから同じ匂いがするのかな?


 とにかく、こうして僕ら「魔神」や「頂上神」や「魔力の残滓」や「大悪魔」ごっちゃまぜのある意味物騒すぎる集団プラス一匹は、目指す場所──首都イシュタムまで残り半分というところまでたどり着いたのでした。

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