第125話 神刀『結界斬』

 顔を真っ赤にさせた肉付きぷるんぷるんな金髪ボブカット女天使。

 それが結界に空けた「穴」に挟まってウンウンと唸っている。

 わかりやすく言うと──。


「ケツがつっかえて宙に固定されてるのか……」


「あ~~~~~! なんでそんなヒドいこと言うんですかぁ~~~!」


 涙目で顔を赤らめる女天使ザリエル。


「ヒドいもなにも事実だろ」


「そんなことより大変だから助けてくださぁ~い! あの三人に見つかったらどんなひどい目に遭わされるか……!」


「ひどい目? 同じ天使だか神同士なんだろ? ひどいとかあるのか?」


「ありますよ~! 私たち天使は『あの』ゼウス様から生まれた子供なんですよ!? 性格……というか男の天使や神は性欲が……! こんな格好であいつらに見つかったら……。うぅ……ぶるるっ……!」


 身震いに合わせてぷるるんと揺れるザリエルの胸。


「じゃあ、その手に持ってる短刀で穴を大きくして出たらいいんじゃないか?」


「……ハッ! ナイスアイデアです! 人間のくせになかなかいいことを言うじゃないですか!」


 ザリエルがいそいそと手に持った短刀で自分の詰まっている穴を不器用に斬ろうとした時──。


 パッ!


 オレはその短刀を奪い取った。


「ふぇ!? ちょっ! 人間の分際で何してるんですか!? ちょっと!? それは祭具殿さいぐでんから私がこっそり持ち出してきた神刀『結界斬ボンド・ダガー』なんですよ!? 人間ごとき低俗な存在が手にしていいものじゃないんですよ!?」


(へぇ、『結界斬ボンド・ダガー』ねぇ?)


 奪い取ったばかりの短刀を太陽にかざしてみる。

 刀身が眩しく光を反射して七色にかがやく。

 柄と鞘には様々な宝玉が散りばめられていて、たしかに神具たる威厳を感じさせる。

 ただし……「まったく手入れがされてなくてクッソ汚い」という点を除けば、だが。


(魔鋭刀は地上に置いてきちまったし、こいつをいただいとくとするか)


「ちょっとぉ~! それ、返してくださいってぇ~! こんなお尻突き出した格好であいつらに見つかったら、もうめっちゃくちゃのぐっちょんぐっちょんにされちゃいますってばぁ~!」


 ぐっちょんぐっちょんとは?

 天使のくせに意外とエグいのか、こいつら……?


 と、脳裏にゼウスの好色そうなツラが浮かぶ。


 うん……まぁ、そうなのかもしれんな……あのスケベそうなジジイの子どもたちなら……。


「ちょっとぉ~! なに一人で納得いったみたいな顔してるんですかぁ~! それより早く助けてくださいって! お願いします、からぁ~!」



 スパパパッ──!



「はぇ……?」



 宙に浮いたザリエルの体がゆっくりと。



「ぶべっ!」



 顔からまえにつんのめって落ちた。


「ててて……ちょ、なに急に斬って……! っていうか剣筋鋭すぎでしょ、人間のくせにぃ~……」


「……で?」


「……はへ」


 赤く腫れた鼻の頭をこすりながらザリエルは「?」という顔を見せる。


「なんでもするって言ったよな?」


「あ、あわわわ、あれは『言葉のあや』で……」


「ほぅ? じゃあ、今からここに来る奴らにお前を突き出してやってもいいってことだな?」


「うぇ……? うううぅ……。そ、それだけはどうかご勘弁……」


「じゃあ、聞くか? 


「ううぅ~……仕方ないですね……。人間ごときの言う事を大天使が聞いてやるなんて異例中の異例なんですからね……? 仕方ないから言ってみてください。あぁ……時間がないですから、早く、手短に」


 後ろを気にしながらパタパタと顔と羽を動かすザリエルにオレは言い放った。



「お前、オレの奴隷になれ」



「……はひ?」


 呆けた顔を見せる隙だらけのザリエルに、すかさずスキルを見舞う。



 【魅了エンチャント



 ザリエルの目がどろりと濁る。


「大天使ザリエル。お前は、オレがここから脱出する手引をしろ。いいな?」


「はい……」


 力なく答える大天使を見て、オレはほくそ笑む。


(くくく……なんだ、結界さえなければ楽勝じゃないか。なんならいっそ、このまま天界とやらを蹂躙してやってもいいかもな)


 ぼへぇ~とアホみたいに口を半開きにしているザリエルを眺めつつ。


 さぁ、こいつを──。


 これからどう、こき使ってやろうか。


 オレは天界からの脱出を少し楽しみ始めていた。

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