第115話 戦闘準備

 表に飛び出すと。


 ドゴォ──!


「うわっ──!」


 振動。

 轟音。

 破片。


 ちょうど目の前で一匹の巨大な飛竜ワイバーンが石壁を蹴り崩し、宙へと舞っていくところだった。


「ドミー! 魔物は襲ってこないんじゃなかったのか!?」


「襲ってきませんよ、これまではね!」


「じゃあ、なんだよ、あれは!?」


「オレにわかるのは、これまでがたった今終わったってことくらいッスね! あ、みなさんはりて壁から離れてくださいッス!」


 意外にも真面目に兵士としてのつとめを果たそうとするドミー。


「ボク、セレアナ、ディーは、ここに残ってワイバーンに対処だ! ラルクくんは下で怪我人の治療を! リサ、ルゥ、セレアナ、テスはラルクくんの手伝い! 途中の階層にいる人達にも避難を呼びかけながら一緒に下りてくれ!」


 ダンジョンでの経験が活きてるのか、すらすらと指示が出てくる。


「くっ……人間界まで来ても、まだフィードの力になれないだなんて……! こうなったら一刻も早く職業というものにいてスキルと職業特性ってのを手にしないと……!」


「リサ、気持ちはわかります。私も同じ気持ちです。でも、今は、ね?」


「……わかってる、わかってるわよ。焦ったところで何も変わらないわよね。ルゥ、今は私たちにできることをやりましょう」


「はいっ、やっぱりリサは強い子ですね!」


「ちょ、なでなでとかやめて……! 子供扱いしないでってば……!」


 リサとルゥ。

 人間になっても、人間界に来てもいいコンビだ。


「ルード」


 テスが、頭につけていたヘアピンを外して手渡してくる。

 ボクが彼女に返していた魔鋭刀。


「大丈夫か?」


「うむ、わがはいには偽モモもおる。それよりも、あれはおそらくウインドシアの父、ウインガラニアだ。フィードと分離した今のルードには手強い相手かもしれん、注意してかかれ。きさまには、魔王様に会わせてもらわんといかんからな」


 ウインドシア。

 ボクが校庭で殺したワイバーン。

 その父──となると、そうとうな手練てだれのはずだ。


「わかった。約束は守るよ。偽モモ。テスたちを頼む」


「命令を受諾じゅだく。テス・メザリア、リサ、ルゥ、セレアナ・グラデン、ラルクの五人を砦の崩落から守り、外まで送り届ける」


「ヒィ──おばけぇ!」


 テスの頭からニュッと生えてきた偽モモを見てディーが腰を抜かす。


あねさんがた! ワイバーンがまた来ますっ!」


「みんな! 行けっ!」


「う、うん、フィード、後でね!」

「下で待ってます!」

「まぁ、ルードなら大丈夫じゃないかしらぁ?」

「わがはいたちのことは心配するな!」

「あわわ、早く行きましょう~!」


 五人が下りていった、そのすぐ直後。

 急降下してきたワイバーンが、鋭い鉤爪かぎづめを開いてディーを掴もうとする。


「ヒィィィ! もうダメ! 死ぬ! なんで私なんかをここに残らせたのよぉぉぉぉぉ!」


 へたり込むディー。

 迫る鉤爪かぎづめ

 けど──。



 【軌道予測プレディクション

 【身体強化フィジカル・バースト

 【斧旋風アックス・ストーム



 ザシュ──!


 ボトッ……。


「ギャオオオオオオオオオン!」


 ディーを掴もうとしていた鉤爪は、ボクの魔鋭刀によって全て斬り落とされた。


「久々に魔鋭刀ダガーを振るった気がする……。最近とんでもない戦いばっかだったせいか、なんだか懐かしいな。うん、やっぱりこれがしっくりくる」


 ワイバーンは再び宙高くに舞い戻り、旋回せんかいしている。

 予想外の己のダメージに動揺しているのだろう。

 その隙に、ボクは二人に素早く指示を出す。


「……は? 斬り……落とした? ワイバーンの爪を……? 貴様、本当に一体何者……」


 まずは、唖然あぜんとしてるディーに。


「ディーは鉄礫てつつぶてを持ってきて! ひと粒でいいから!」


「ワ、ワイバーンを相手に鉄礫てつつぶてなんか……」


「いいから、早く!」


「ヒッ──! わ、わかった……」


 続けて、弩弓兵どきゅうへいのドミーに。


「ドミーはボウガン使えるよね!?」


「え、ええ! ここに赴任ふにんしてからボウガンって名字をつけたくらいッスから!」


「よし、じゃあ矢を装填そうてんしてくれ!」


「え、でも絶対当たんないッスよ!? 夜で、しかもあんな高速で飛び回ってる奴に」


「うん、それなら大丈夫」


 ドミーと話してる間に、ディーが兵舎の中から鉄礫てつつぶてを持ってよろよろと戻ってきた。

 ボクは二人に言い放つ。


「よし、じゃあ今からワイバーンを退治するぞ! この三人で!」


 えぇ~……? という表情で。


 異世界人とエルフが、ボクの顔を見つめていた。

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