第89話 カムバック、記憶!
金ピカの龍に乗って移動するのは、ボク、リサ、ルゥ、テス、セレアナ、ケプ、カミラ、アルネ、ヌハン、トリス、ジビルの学校組の十一人。それに、オガラの親戚一人とツヴァ組構成員七人を含めた計十九人だ。
大悪魔のダンジョンへと続く穴。
プロテムの掘ってきていたそれを、今、ローパーたちが総掛かりで龍の通れるサイズまで拡張し続けてくれている。
種族間でテレパシーを使うことの出来るローパー達。
どうやら先回りして掘り進めていてくれたようだ。
ボクらを乗せた龍は、穴の中を猛スピードで駆け抜けていく。
「あらぁ~! すごいですわぁ~! わたくし、いま龍の背中に乗ってますのよぉ~!」
「たしにすごいわね……! これ、自分で飛んでたときとはまるでスピードが違っ……キャッ!」
天井にぶつかりそうだったリサの頭を抱える。
「気をつけて。もうバンパイアのときとは違って、脆い人間なんだからね」
「う、うん……。ありがと、フィード……」
ボクの腕の中で素直に礼を言うリサ。
後ろにいるルゥのニヤニヤした目線が痛い。
「みんな~! ローパーたちが掘ってくれてるけど、天井危ないから身を乗り出さないように~!」
「お、おう、わかったぜ!」
「はぃ……わかりました……ブルブル……」
頭の中に入れてた
「うぉおう……りゅう、すごい……。これも、本をよんでるだけでは、なんどうまれかわっても、わからなかった、かんかく……」
強風で金髪がオールバック状態になってる少女テスも感動を覚えてるようだ。
「大悪魔でも知らなかったか?」
「うむ……っ! フィードといっしょにいたら、ほんとにあたらしいことが、たくさんしれるなっ!」
「ハハッ、そうだね。にしても残念だったね、ララリウムに残ってたダンジョンの壁と同化できなくて」
「うむ……あれは、もう機能を、うしなっておった。いったい、むこうはどうなっていることやら……」
「ま、戻ってもボクらのゲームは残ってるんだ。まずは、それを終わらせることを考えよう。テスが、あっちのダンジョンと同化できたら、そっからまたゲームの再開だ」
「むぅ……それなのだが……」
テスがなにかを言おうとした時、懐かしのダンジョンが前方に見えてきた。
【二十六階層】
「うおっ、もう着いたのか! 早ぇ! 龍、はんぱねぇ!」
「コケっ!」
着いてしまえば怖いもんなしとばかりにヌハン、トリスの男子二人組がはしゃいでいる。
龍は、穴が続いてるダミー扉の手前で止まってじっとしてる。
ここから先は龍が入るには狭すぎる。
彼の役目はここまでだ。
ボクは、龍に礼を言う。
「ありがとう、キミのおかげで助かったよ」
「どういたしまして、だ」
神々しい声が周囲に響く。
「えっ!? もしかして、キミ喋れたのっ!?」
「別に喋れないとは言っていない」
「あ、うん、まぁそりゃそうだけど……」
その後、龍──鑑定士してみたらなんと種族:
(なんか……また凄そうな名前のスキルを貰っちゃったんけどいいんだろうか……?)
でも今は、まず大悪魔とのゲームに集中しよう。
ボクは、ララリウムへと続いていた穴を抜けてダンジョンへと足を踏み入れた。
「テス、どうだ? ダンジョンとは一体化できそうか?」
「……むり。きょぜつされてる。なぜ? たましい、つまり核は、わがはいの肉体にあるのに……」
ふむ、ダンジョンから切り離されたテスが消えてしまうとダンジョンそのものが崩壊して作り変えられるはずだ。
だから、ダンジョンとしては本体であるテスが帰ってきたら再び吸収するはずだが……。
「フィードぉ? ここで頭を悩ませてても時間は過ぎていくばかりですわよぉ? みなの命がかかってるのですから、動きながら考えてはいかがかしらぁ?」
セレアナ。
自らを歌手であると自覚してからの彼女の言葉は、以前よりも説得力が増し、より心にストンと入ってくる。
「そうだな、まずは本物の扉が現れるという二十五階層の中心部分を確認しよう。テス、残り時間は?」
「うむ、あと二十時間だ」
二十時間。
それが、オレと仲間たちの命のタイムリミットだ。
【二十五階層】
二十五階層。
壁は崩れ、床はめくれ上がり、天井もボロボロに崩壊しかけている。
「ひどいな、これは……」
ヌハンによると、おそらくもぐら悪魔とオルクたちの戦いが、ここまで続いたんだろうということだった。
そこから中間地点まで進むと、床に座り込んでいるサバム、キュアラン、エモが見えた。
「ヌハンっ!? トリスっ!? なんで……!? そ、それにフィードたちにツヴァ組……オーガの人まで!」
サキュバスのサバムが驚きの声を上げる。
「セレアナ様……! もう、このまま死ぬまで会えないかのと思ってました……!」
半人半蛸、スキュラのキュアランが涙を浮かべてセレアナに抱きつく。
「あらぁ、キュアラン? 世界の歌姫たる私が、ファン第一号であるあなたを見捨てるなんてこと絶対にありませんわよぉ……」
セレアナも、慈悲にあふれる声でキュアランを優しく包み、彼女の紫色の髪を優しく撫でる。
それから、ボクたちは簡単にお互いに起きたことを説明し合った。
どうやら彼女たちは途中で負傷し、最終目的地であるここで待機していたそうだ。
そして今現在、オルクたち学生チームは上層を目指し。
ウェルリンともぐら悪魔、インプの三人は下層を目指しているとのことだった。
ということで。
ボクたちも二手に分かれることにした。
機動力のあるケプを中心にヌハン、トリス、カミラ、サバム、キュアラン、オガラの親戚、ツヴァ組構成員七人の計十三人が上層に。
飛んで移動の出来るボクが、リサ、ルゥ、テスを抱えて下層に。
「本物の扉を見破れるアルネは、もしのことがあっちゃいけないから、ここで待機がいいね。で、セレアナもここにいる?」
「ええ。真ん中にいれば、わたくしの歌声が上にも下にも聴こえますでしょう? わたくしの本気の歌を聴かせてさしあげますわぁ」
「なるほど、セレアナは歌で全体にバフを届かせてくれるってことか。よしっ、じゃあエモとジビルは……」
デーモンのエモ。
ボクがこれまでに一番スキルを多用させてもらった【
インビジブル・ストーカーのジビル。
初めてボクが自分の意志で殺した……魔物から変化した人間。
きっとボクを憎んでいるだろう。
だからボクは、バタバタしていることを言い訳に、彼をまだ魔物に戻していなかった。
透明になって復讐されるのが怖い──と思ってしまっていたからだ。
だけど。
それじゃあ、ちゃんと彼と向き合ったことにはならないよな。
「聞いてくれ、この
簡単に説明をし、サバム、キュアラン、エモ、そしてジビルに
「ジビル……キミにボクがしたことは許されることじゃないと思ってる。わかってくれとは言わないが、でも、ボクが生き延びるには、ああするしかなかったんだ。だから、キミが今後ボクに復讐をしたいのなら。いつ来てくれても構わない。ただ、ここから、みんなが脱出できるまでは待ってくれたら嬉しい」
前女王ポラリスの用意していたサイズのピッタリ合った服に身を包んだジビルは、ボクが差し出した瓶をひったくるように奪い取る。
そして通路の隅で中身を一気にあおると、透明になっていき──完全に姿を消した。
「きゃ~っ!!」
嬌声があたりに響く。
サバスだ。
「ほんとにスキル戻ってるぅ~! あ~ん! ずっとモテなくてご無沙汰だったから寂しかったのぉ~!」
「ちょ、ちょ、ちょっとっ!? いや、だからオレそういうのアレだから! ちょっと! いや、マジで!」
サバスに飛びつかれたヌハン。
動揺して落としたヌハンの頭がコロコロとダンジョンを転がっていく。
「くくく……気分がいいぜ……やっと自分を取り戻せた感覚だ……」
デーモンのエモ。
スキル【
普段から凡ミスしまくりで、クラスから足手まとい扱いをされていた。
そんな彼が、取り戻した。
元のスキル【
「エモ。キミのスキル【
「当たり前だ。魔界のバカどもはオレの凄さに気づいちゃいないがな。ま、こっちから気づかせないように仕向けてるから当然なんだが」
「同じくらい頭が回るなら話は早い。こうして喋るよりも、まずはここを脱出することに全力集中、だな」
「ああ、ってことでオレたちは上に行く。ケプの移動速度を考えながら、時間までに全員をここに連れて戻ってきてやるよ」
「うん、ボクたちは下だね」
「
「ああ、頼んだ」
「おう、頼まれた」
ツーカーの仲。
今までほとんど話したことがなかったエモだったが、同じスキルを持っているというだけでここまでスムーズに話が運ぶとは心強い。
人間はバランスよくパーティーを組もうとするが、魔物はよく同族で固まっている。
以前は、そういう魔物のこと非合理だと思っていたが、今なら彼らの気持ちがわかる気がする。
「おい、キュアランにヌハン! いつまでイチャついてんだ、ヤるなら終わってからヤれ! さっさと行くぞっ! ジビルはまだこの辺にいるか!? いるならここで待機だ! いいな?」
さっそくテキパキと場を仕切るエモ。
「あ、ああ……」
虚空から小さく返事が聞こえる。
それからツヴァ組の構成員たちは、最初「オレたちがボンを助けにいかねぇでどうすんだ!」とゴネてたが、ボクとエモで
最後に、一人だけ生き返ったオガラの親戚のオーガも「みんなのことを故郷に伝えるためには仕方がない」と、上層を手伝ってくれることになった。
「それじゃ、エモ。またあとで」
「ああ、生きて全員でここから出るぞ」
ボクたちはそれ以上の言葉は交わさず、それぞれの方向に分かれる。
ボクは、スキル【
【
ぐんっ……。
加速が急になってテスが落ちないように気をつけつつ、ボクらは通路の中を飛ぶ。
「~♪」
背後からはセレアナの美しい歌声が聴こえてくる。
すぐにわかった。
これは彼女の本域、本気の歌なんだと。
心に勇気と希望が湧き上がってくる。
ボクは、さらにもう少し、スピードを上げた。
【五十階層】
片っ端から通路を石化していく。
万が一、罠やトラップが残っていた場合のためだ。
各階のダミー扉のトラップは全てものの見事に被害なく発動させられていた。
(たった三人なのに……ウェルリンたちはすごいな……)
ボクはウェルリンのスキルを奪い、記憶まで奪ってしまった。
人間になったインビジブル・ストーカーのジビルを殺させもした。
でも、あの学校で過ごした夜の日々はボクの中にしっかりと残っている。
あれは、ボクが檻から脱出するための訓練の時間だった。
でも、ウェルリンたちと過ごした楽しい語らい。
一緒にリサの持ってきた料理を食べた思い出。
それはボク、アベルの中に強く残っていた。
ウェルリンはもう覚えてないだろうけど。
全てを思い出したら、ボクのことを許さないだろうけど。
でも、ボクは彼を仲間、というか……そうだな……。
友達。
友達みたいに思っていた部分がたしかにあった。
それだけに、彼がこうしてすごいことをやり遂げているのを見ると、ボクはどこか嬉しく感じてしまう。
そして、たどり着いた。
最奥。
五十階層の、その場所で。
ウェルリンともぐら悪魔が、最後のダミー扉のトラップを解除しようとしていた。
「ウェルリン……」
狼男がゆっくりと振り向く。
「てめぇ……フィード……!」
なんと声をかければいいか。
悩んでいると、ウェルリンが静かに唸った。
「オレは思い出したぞ……! てめぇにされたことを……すべてな……!」
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