へなちょこ鑑定士くん、脱獄する ~魔物学園で飼育された少年は1日1個スキルを奪い、魔王も悪魔も神をも従えて世界最強へと至る~

めで汰

魔物のスキルを奪い取る「檻の中」編

第1話 「追放→拉致→エサ」のコンボ

「アベル、貴様には今日限りでこのパーティーから抜けてもらう!」


 クエストを終え、街へと入る直前に告げられた。


「鑑定しか使えない貴様を養ってやれるほど、余裕がないんだ」


 筋肉ムキムキの戦士マルゴット。

 ボクたちのリーダーはそう言うと唾を吐き、見事ボクの頬へと命中させた。


「アベルくんも、最初はアイテムや魔物の鑑定に役立ったんやけどなぁ。もう一通り鑑定しちゃったから、もういらんのよなぁ。キッヒヒヒ!」


 粘着質なキヒヒ笑いをするのは、侍のミフネ。


「ほらぁ? アベルちゃんってぇ、間抜けだからすぐ怪我しちゃうじゃなぁい? それを回復する魔力が、ぶっちゃけ・無・駄・なんだよねぇ~。きゃははっ!」


 王国一番の美少女と評判が高い聖女見習いソラノ。そして、その性根が王国一番の腐れ具合なこともボクは知っている。


「ばぁ~か、ばぁ~か! ゴミクソ足手まとい!」


 召喚精霊。

 術符マニアの魔術師ジュニオールの頭の上に乗っかった、それ。

 小型の精霊が、ユラユラと揺らめきながら語彙ごいゼロの悪口でボクをなじる。


「っつーか、そもそもこの雑魚って、なんで冒険者なんかになったわけ? ま、さっさと消えてくれりゃ~、その分オレの分前わけまえも増えるってんで、ま、助かるわ」


 エルフのエレク。

 とにかくセコい守銭奴の狩人だ。


 そして……。


「え、ちょっと待って!? みんな急に何言ってるの!?」

 

 ボクの幼なじみ。

 子供の頃からイジメられていたボクをかばってくれていた正義感の強い女の子、モモ。



『アベルくんは、私がずっと守るね』



 当たり前のように一緒に冒険者になって。

 当たり前のように一緒のパーティーに入った。

 でも元々才能のあったモモとボクの差はどんどん開いていって……。


 いや、その話は今はいい。

 それより現状を整理しよう。

 モモ以外の全員が、ボクをパーティーから追い出そうとしている。

 なんで?

 え? 急じゃない?

 たしかに、実力不足は認める。

 ボクは戦いで役に立ってない。

 でもだからって、なんでこんな時にこんな場所で?

 しかも、まるで事前に打ち合わせでもしてたかのように一斉に。


「た、確かにボクは要領悪いけどっ、そ、それなりに一生懸命頑張ってきて……」


 だめだ、弁明しようとするが舌がもたついて言葉が出てこない。


「『が~んばって』だって! ブヒャヒャヒャヒャ! おいおい、このチビ! 頑張ってたら周りにいくら迷惑かけてもいいらしい!」


 夕暮れの空にマルゴットの馬鹿笑いが響く。

 湿気ってきた空気がボクの胸に突き刺さる。


「で、でもっ! ほら、まだ魔物の魔力とかアイテムの効果とか……」


 そうだ、ボクに出来ることだって、まだあるはずだ!


「キヒヒヒ! アベルくんの鑑定は、【種族】と【魔力】、それに【アイテムの状態】しかわからない欠陥スキルやからなぁ! で、それが最後に役に立ったのは……あれ? いつやったけぇ?」


 ミフネの嫌味な言い回しが胸をえぐる。

 たしかに、ボクの鑑定スキルは不完全だ。

 でも、鑑定はレアスキルだし、いつかきっと……。


「あれぇ? アベルちゃん、もしかしてぇ、ずぅ~っとみんなからウザがられてたの、もしかして気づいてなかったぁ? うわぁ、よわっちぃうえに空気も読めないんだぁ? ウケる、アベルちゃん。ねぇ、アベルちゃん? アベルちゃんは、一体何のために存在してるのぉ?  ねぇねぇねぇ、アベルちゃん? ──なんで生きてるのぉ?」


 ソラノ、そこまで言うことはないだろ……。

 ボクだって、まだ成長するかもしれないじゃないか……。


「しっかしなぁ~。最初はみんな同じレベルの駆け出し冒険者だったのになぁ。アベルだけここまで成長しないとはな~。マジでお前がいなかったら今までどれだけ装備を整えられたと思ってんだよ、カス」


 ほんとに……。

 ほんとに、なんでボクだけこんなに成長しなかったんだろうな……。


「アベル! テメーがいつ自分から脱退するって言い出すかみんな待ってたんだよ! カ~ス、カ~ス!」


 召喚精霊にすら言い返せない。

 みんなそんなにボクのこと嫌ってたのか……。

 ごめんね、気づけなくて……。


「で、でもっ! アベルくんは魔力すっごく高いんだよ! きっとこれから強力なスキルを覚えて……」


 もういい、やめてくれ、モモ。

 いくら魔力が高くても、鑑定スキルしか持たないボクには宝の持ち腐れなんだ。

 これ以上、もうボクに恥をかかせないでくれ。


「あぁ!? いつかっていつだよっ!?」


 マルゴットのよく通る声がモモを威圧する。


「いつかって五年後!? 十年後か!? それとも百年後!? あぁ!? オレたちみんな死んでるわなぁ!」


 みんなの笑い声が空に響く。


「そもそもさぁ~。アベルちゃんってぇ、モモちゃんがいなかったら、とぉ~っくの昔にお払い箱だったんだよねぇ。モモちゃんが超レアな【聖闘気セイクリッド・オーラ】スキル使えるから、一緒にいさせてあげただけなのにぃ。まっさかこんなに居座られるとはねぇ? ほんっっっとに空気を読めないんだねぇ~? きゃははははっ!」


 ボクはうつむき、震えながら声を絞り出す。


「もういい……。もういいよ……わかった」


 卑屈な顔をしてるのが自分でもわかる。


「ボ、ボク、パーティーを、抜ける……よ。今まで迷惑かけて、ごめん……」


「そんな……アベル!」


 伸ばしたモモの腕をマルゴットが掴み、街へと引きずっていく。


「よ~し、じゃあアベル! 貴様は、しばらくそこに立っとけ! 一緒に町に入りたくねぇからな! もう二度とオレたちに近づくなよ!」


「キヒ、キヒヒ……! これでやっと我らがパーティーも完全体に……!」


「おう、さっさと消えろ、無駄飯食らい」


「カ~ス、カ~ス!」


「じゃあね~、バイバ~イ! もう二度と私達の前に姿を見せないでね~。あ、私達のパーティーに居たことも言っちゃダメだよぉ? だって私達のパーティーにアベルちゃんが居たこと自体が黒歴史なんだからぁ! じゃ、早く消えてねぇ~、この世から! きゃははははっ!」


 好き放題言って去っていくパーティーメンバー、いや、パーティーメンバーたち。


 は、はは……。

 町にも一緒に入りたくないだって……。

 そんなに嫌われてたんだ、ボクって……。

 腰が抜けたように、町外れの街道に座り込む。


 バサッ!


「……ッ!?」


 顔がなにかに覆われた!


「ぶふっ……ぐっ……!」


 なんだ……!?


「恨むなら王国を恨みな」


 頭に被せられた袋? 越しに声が聞こえてくる。

 王国?

 なんで王国の名前が?


「お前は売られたんだよ」


 売ら……れた……?



睡眠スリープ



 強烈な眠気が襲ってくる。

 急速に薄れていく意識の中。

 ボクは悟った。


(ボク、は、パーティーのみんなに売られ……た、のか……?)


 暗転。


(信じてたのに……)


 ◆


 目を覚ます。

 裸だ。

 冷たい。

 鉄?

 鉄の中にいる。

 いや、おりだ。

 なぜ檻?

 ああ、捕まったから?

 でも、捕まったって誰に?

 そういえば王国がどうとか言ってた気が……。


 まだぼやけてる視線を正面に向ける。


 すると、目に飛び込んできたのは、鉄格子と。


 その向こう側にいる無数の──魔物だった。

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