今度こそ終わらせる。
さんまぐ
搾取されるタカサキユキヤ。
第1話 二度目の死。
人の人生は千差万別。
悪いことの後には良いことがある。
良いことと悪いことは同じ数だけ用意されている。
そんな言葉は大嘘だ。
明らかに世の中は不公平で出来ている。
そうでなければこの俺、高崎幸也は二度目の死を迎えていない。
「あらあら…またですか?タカサキさん」と言って目の前に現れたのはチャンスの女神様。
人にチャンスを与えるのが使命らしくて、地球で非業の死を遂げた人間の前に現れて、チャンスを用意したからものにしてこいと勧めてくる。
最初に会った時は、断っても「決定事項なんです」なんて言って、安直な名前のファンタージに送り込んでくれた。
ニコニコとしながら「説明が不要なのは楽チンですわ」と言う薄着女神が鬱陶しい。
スケスケの白い服。
赤茶色い髪の毛がふわふわしてて、綺麗系とも可愛い系ともつかない整った顔の女神は、「タカサキさんの一度目は不審車に跳ねられて、バックで戻られて潰されて死にましたよね?」と具体的な一度目の死因を言う。
「不審車ってウチの実家にあった、俺の金で買ったSUVだろ?アイツら防犯カメラも街灯も無くなる一瞬の隙を狙って突っ込んで来やがって、虫の息の所をご丁寧にトドメまで刺してくれやがった」
俺は死んでこの場に来た時、このチャンスの女神様から真相を聞いて憤慨した。
それがあったからこそ、強制的なファンタージの話も最終的にはやる気になって受けた。
「はい。まあ被害者がタカサキさんなので、すぐに事故で解決してしまいましたけどね」
まずそれがおかしい。
女神様から見せてもらったが、タイヤには血痕や髪の毛が付着していた。
車には不審な衝突跡まである。
もっと言えば、葬式は最低料金の格安仕様で、アイツらは俺の保険金の皮算用でずっと笑っていた。
それなのに警察は、捜査を簡単に打ち切って事故死にしてしまう。
女神様は「今回は焼死ですか。熱かったでしょうね」と泣き真似のような仕草を始めて、「しかも前回の半分も生きられないなんて、可哀想で非業の死を遂げたタカサキさんには、またファンタージ行きの権利を差し上げますね。頑張って三度目の命を手に入れてくださいね」と言ってきたが、「いやだ。もういい」と言って断った。
「あら、なぜですか?」
「一度目と違い慎重に生きた。悪目立ちも避けた。分相応に生きた。自活を始めたらコレだ。どうせ今回も犯人はアイツらだろ?これで三度目を迎えてもロクなことにならない」
俺が睨んでも女神様は、ニコニコと「はい。今回もですね」と説明してくる。
そして「ですが一度目と二度目とも違う道を選べば良いんです。さあ!ファンタージへ!」と言って溢れそうな笑顔を見せてきた。
「やだ。ファンタージに二度目のオッサンが居て、話を聞いたらファンタージだと死んでもレベルは戻されるしスタートからなんだろ?」
そう。蘇っても基本情報の変わらない、非業の死を遂げた連中は、大概また非業の死を遂げる。
オッサンは一度目は死に物狂いでクリアを目指した。ファンタージはゲームの中みたいで居心地は悪く無いのに、「早くここから出たい」「ここは嫌だ」と言う渇望が出てきてしまう世界で、皆がクリアを目指してわかりやすい魔王退治を目指す。
唯一許せるのは、誰か1人でも魔王を倒せば終わりなので、上手くいけばファンタージに降り立った瞬間にクリアになるケースもある。
オッサンは一度目に頑張って世界を救って幼少期に戻ったのに、またオッサンになった頃に殺されたらしい。
もう死にたいと言ってファンタージでトカゲ騎士の攻撃を受けて死んだのに、レベルは1まで戻されてスタート地点のはじまりの丘に立たされていたらしい。
女神様は困り顔で「あらあらアキタさんに会ったんですか?でもタカサキさんが魔王を倒して三度目の人生を生きてますが、無事に還暦を迎えて定年退職されましたよ?タカサキさんも今度こそ平気ですよ」と言う。
「それはいいや。拒否権は?」
「ありませんよ。ファンタージへようこそ!」
「逃げられない?」
「はい」
「じゃあ聞くけど、アイツらの犯行は?」
「高校生で独立して、生計も別々にしたところまでは良かったですが、あの人たちはタカサキさんの成功が妬ましい人達ですからね。お住まいの郵便ポストから、インターネットで買った睡眠ガスをチューって入れられて、寝たところでタバコの吸い殻を放り込まれてって奴です」
「俺、タバコ吸わないけど?」
「はい。ですが今回も不審死で片付きました」
「嘘だろ?タバコの吸い殻のDNAとかは?」
「やって貰えると?あの真っ赤なタイヤを無視した警察ですよ?」
俺はあのSUVのタイヤを見てクラクラした時の気持ちを思い出しながら、「でしょうね」としか言えなかった。
「で?俺がここに来ないようにするには?」
「お分かりでしょう?ファンタージをクリアして、三度目の人生を成功させて非業の死を遂げない事です」
「ここでリタイアは?」
「システム上認められません」
「なら行く。さっさと俺をはじまりの丘へ」
「はい。頑張ってください」
俺は渋々女神様の言葉に頷いてファンタージへと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます