第二十三話 特別な何か
風子が指定した目的地は、有名なチェーンのファミリーレストランだった。
「……ファミレスじゃん」
「ちっちっち、わかってませんなぁ雪穂さんは。こういう庶民的なお店こそ一番杏資する味なんですよ」
「高いとこ行ったことないじゃん」
「…いや、わかってますよわたしも。だいたい一高校生にそんな高いとこ行けるようなお金出せるかぁっ!!!」
首に巻いたマフラーをはためかせながら、風子は派手にツッコミをかました。雪穂も最初はあまり気が乗らなかったものの、彼女のテンションの高さを見ると、何だかんだでそれに少し乗せられた部分はあったのだった。
少し並んでから、改めてテーブルに着く。
友達と一緒に昼ご飯を食べに行くなんてこと、今まであっただろうか。そんな風に考えると、なんだか少しだけそわそわとしてきた。
「緊張してる?」
「いや、実はこういうの初めてでさ。あたしの家普段滅多に外食も行かないから、ファミレスも滅多に行かんの」
「あー、そのへんは個人差あるよねぇ。実はわたしも友達と来るのは初めて」
「マジ?」
てへっと無邪気に舌を出す風子に、雪穂は少し困惑する。てっきり慣れているものだと思っていたから、意外だった。
「ちなみにオススメはパスタかドリア。まあ頼みたいもん頼むのが一番だけどね!」
「もしかして家族とは何度か来てるの?」
「そうだよ?小学校の時から成績が良い時のご褒美!っつってね。ただのファミレスではあるけど、なんつーか特別感っていうのが大事なんだと思う」
「特別感かぁ……」
きっと子供の頃の風子にとっては、特別な場所に来ていつもと違うものを食べるということそのものが、楽しいことの一つだったのだろう。
よくよく考えれば子供騙しではあるよなぁ……なんて考えながらも、幸せそうに笑う風子の顔を見ていると、単なるそれで終わらない何かがあったのかもしれないと、雪穂はまだ知らない風子に思いを馳せていた。
「雪穂はそういうのなかったの?そういうご褒美的なの」
「なかったなー。あたしそんな勉強できる方じゃないし。風子はさ、もしかしてその成績維持するモチベーションってもしかしてこれ?」
「それも一つかな。でも一番は……あーでもわからん。何がモチベでやってるかなんてその時の気分次第だからね。何なら勉強やってる自分がすごいえらい!とか、そう思うわけでもないんだよね」
「マジかぁ……流石成績上位者の人は考えることが違うわぁ」
「そんな変わったことでもないよ。その時その時全力疾走してるだけ。さあ注文するよ!」
「せっかくだしオススメ通りパスタにしようかな、この明太子パスタってやつ。風子はどれにする?」
「んじゃドリアにしよ。…んじゃこのタッチパネルで注文するね」
慣れないタッチパネルを操作しながら、メニューを見て2人は注文を決めていく。
「わたしも最近は戸惑ったなー。それにしてもほんと便利になったもんだよ。昔はベル押してね、チーンって音鳴らしたら店員さんが注文聞いてくれたんだけどね」
「あー、あたしもそのイメージあった。今って違うんだ…」
あくまでもテレビのドラマなんかで見たイメージだけど、と付け加える。
「あっはは、テレビのドラマのは色々古いからねー。それになんか今雪穂忙しそうだしそもそもドラマとか見てないっしょ」
「ここ1年くらい何も見てない」
「高校入ってからずっと見てないじゃん」
「面白そうなのないんだよ」
半分嘘だった。面白そうなのはあったのだが、何となく見る気にならないだけだった。
「またそんなこと言ってー。興味ないだけじゃない?」
「…ま、まあ。そういうところは。正直、あるっちゃある」
目を泳がせて誤魔化したが、きっと風子には全部バレているのだろうと内心思ってしまっていたのか、雪穂は下手な誤魔化ししかできない。
「別に興味ないならないんでいんだよ?無理に話合わそうとか思わなくても。そんなことしなくても友達だもんね」
「そう言ってもらえると嬉しいよ……でも風子、もうちょっと合いそうな子クラスにいんのに。自分で言うのもなんだけどあたしってそんな付き合いいい方じゃないし」
「うーんそうかもしんないねー。でもさ、わたしは雪穂だから一緒にいんだぞ?そんな水臭いこと言いなさんなって」
「ごめん、変なこと言っちゃった」
どうもモヤモヤとした気持ちが晴れない。この気分は一体何なのだろうか。先ほどから話していても、同じところで話しているような気がしないのだ。
注文していた料理が届く。美味しそうな匂いが、机の上を漂っている。
「お~~~やっぱ美味しそうだね~~~~それにしてもほぼ同時とは運が良いね」
「風子のそのドリア、すごい熱そうだね」
「っしょ?でもやっぱご飯はアツアツのが美味しいじゃん?雪穂も早く食べなよ」
「……そうだね」
この感情は一体何なのだろう。それに、悪魔が自分たちを狙っているというのも気になる。
そして、御堂の行方も……。
「あーー、食べた食べた~~~!雪穂は満足?」
「うん、美味しかった」
結局、考え事をしながら食べた明太子パスタの味は、良く分からなかった。家で母親が作っていたそれと、あまり変わらないじゃないかとも思ったが、風子の前でそれを口にするのは、なんだか憚られた。
「いやぁ、実は雪穂が最近思いつめ気味だったから、美味しいものでも食べたら気分変わるかなって思ってさ」
「あー、気遣ってくれてたんだ。なんか、答えられなくてごめんね」
「何で雪穂が謝んのさ!最近なんかほんと変だよ?」
「あー……あー。うん」
その先は、何も言葉が浮かばなかった。言いたいことが見つからなかった。
「ま、言いたくない事情があるんならいーよ。それをあえて聞かないでいるってのも大事だし」
「それは……ありがと」
「にしてもおいしいご飯食べてもダメか~~~~、なんか連れ回す?いやそれも嫌がりそうだしうーん……」
あれこれを手を尽くしてもらっているということに、なんだか後ろめたさを覚えるが、そんな感情も表には出すまいと、必死に抑える。
「ん?そんなところで何してるんだ?」
悩む雪穂の前に、一人の青年が現れた。
「……雄介さん。雄介さんこそこんなところで何を?」
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