水槽のなか

歯医者さんの待合室

水槽を見ていると

仄蒼く光る小さな熱帯魚の群れが

流れをつくっている


ふと

底に身を横たえていた

大きな黒い魚が

ゆっくりと泳ぎ出した


不思議にぶつかるでもなく

それぞれが

それぞれのペースで泳いでいる


わたしは黒い魚から目が離せなくて

その姿をいつの間にか

追っていた


狭い水槽という世界の

泳ぐ小さな魚になったみたいに

黒い魚の後を追いかけた



名前が呼ばれて

我に返って

振り返りながら診察室へ入った



あの水槽で一匹だけの

あの黒い大きな魚は

どんな目をしていたっけ、と

考えながら


また今度、会いましょう、と

心に呟きながら


わたしの世界へともどっていった

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