契約
「で、どうするの?」
にっこりと笑みを浮かべてこちらを見てくる。その目にはひとかけらの疑いも浮かんでいなかった。
「ああ、いや内容は聞かなくていいのか?」
「うん、だって君が私にひどいことをするわけがないでしょう?」
「なんで……?」
「もう覚えてないかなあ? 前に助けてくれたこと」
心当たりはあった。と言っても危険な現場で命を救ったとかいうような劇的なもんじゃない。ちょっと食料を分けたとか、作業を手伝ったとか、愚痴を聞いたとかそういった類のもんだ。よくある助け合いという程度のものである。
「んー、でもさ、君は私に手を出してこなかったでしょ?」
「はあ!?」
「そういうことだよ。みんなそういうこと目当てによってきてたからね。わかるんだ」
たしかにこいつは美人で愛嬌もある。安っぽい装備に身を包んでいた時はわかりにくかったが、こうしてパリッとした服装をしていると、TVに出ている芸能人にも負けないほどの見た目だ。
「ふふーん。ようやく私の魅力に気付いたかね。朴念仁のアカツキ君」
そうやって微笑まれると、見慣れているはずのカナタの顔が何か別人のように見えて目を合わせられない。
『マスターは中学生ですか?』
シータからのツッコミも返す余裕がない。
『心拍数上昇および血流の増大。ああ、下半身にも行ってますね。これはいわゆる欲情というやつですね』
「や・め・ろ!」
『正常な反応ですよ?』
「わかってるがやめろ!」
『そんなだからd……いいえなんでもありません』
「泣くぞ? ガチでギャン泣きするぞ?」
『おーよちよち。ボクが甘やかしてあげますよー』
ふと気づくとカナタがきょとんとした表情でこっちを見ている。向こうからすれば俺はいきなり顔を真っ赤にして見つめてきているように見えただろう。
「ねえ、どうしたの?」
「ああ、すまん。何でもないんだ」
『そこで見とれていたとか言わないからd』
「やめんか」
「で、いい話って何かな? ハイかイエスの準備はできてるよ?」
「ノーは無いのか……」
「ないね」
ため息をつきつつ俺とカナタだけを覆う大きさの遮音結界を張る。これで盗聴は不可能だ。それでもカメラとかは動いているんだろうな。
『一時的に無力化しますねー』
そうだった。こいつはあらゆる機械の頂点に立つような存在だったな。カメラを一時的に操るとかお手のものだ。
眷属についての説明を読む。要するにシータの一部を相手に埋め込み、力の共有化をするということだ。埋め込む比率によって与える力が変わってくるがその分本体である俺の力が落ちる。
『んー、3%くらいですかね。受け入れる側の器のこともありますし』
「どういうことだ?」
『それなりの魔力ポテンシャルがないと耐えられないのですよ。具体的にはパーンってなります』
「物騒だな……だからあなたは理想のマスターなのですよ。ポテンシャルが人間離れして高いのです。なんなら高位のドラゴンに匹敵しますね』
「マジか……」
『彼女くらいなら3%で。それでも人間たちの言う魔力値16000くらいになります。こっちにも50万残りますので』
「なるほど?」
『じゃ、準備しますねー。ちょっとカナタさんに指向けてもらっていいですか?』
「こうか?」
人差し指をカナタに向けるとそこから3本の針が飛び出し、カナタの胸元に突き刺さった。
「うきゃっ!?」
何やら可愛らしい悲鳴を上げるが、位置的に心臓に突き刺さっているはずだ。普通に致命傷になるはずが、何のダメージも負っていないようだった。
「何……これ」
ぶわっとカナタの中から魔力が溢れる。いつの間にか額にはひし形の紋章が浮かび上がっていた。
「これ……君の力かい?」
「あ、ああ」
『ふふー。カナタさん。マスターの眷属へようこそ―』
「ふぇ!?」
「ああ、お前さんにも聞こえるようになったか」
「え? え? え?」
『ボクは汎用ナノマシン決戦兵器のシータと申します―。コンゴトモヨロシク』
パニックに陥っているカナタに事情を説明できるようになるまで数分かかった。
「えーっと、ようするに、私の中に君がいるんだね?」
『そうなのですー』
機械生命体とドラゴン族の抗争とか異世界から飛んできたとか、ファンタジーとSFが入り混じったような話が現実に起きていて、そのなかで人間が第三勢力となりつつあるという現実。
「あー、頭が追いつかないわ」
「だよなあ」
「それで、一応私が来た表向きの理由だけども……」
「キサラギ家に俺を取り込むんだっけか?」
「うん、けど私は君に返り討ちに遭って取り込まれちゃったから―」
だんだん棒読みになっているのは最初からその気はなかったということだろう。それでも一応立場というか建前は今のところ守るということか。
「んじゃ次の任務で俺の副官やってくれ。メインのアタッカーはギリシャの魔王が来るらしいぞ」
「うぇ!?」
素っ頓狂な声を上げるとだらだらと脂汗を流し始める。
「なんかあったのか?」
「いやー……彼女とは一応知り合いなんだけど……」
そう言った次の瞬間応接室のドアが吹っ飛んだ。
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