日影射すカスミソウ
「閉じ込めといて白々しい……」
「まぁ、どうせもう出られないんだ、諦めて寛いでくれ」
俺は無言のままリビングの、奴が座ってるソファとは反対にあった椅子を二脚取ってリビング入口に置いて座った。
「どうせ時間はいくらでもあるんだし、暇つぶしにちょっとした小話をしようか」
「小話?」
「そう、これはとある町に生まれた男の物語———」
その男は生まれた時から貧乏だったんだが、幸運な事に人間関係には恵まれていてね。親は仕事が忙しいが休日には何処かへ連れてってくれたりするごく普通の家庭に生まれた。
そんな男が高校生の時だった。その頃の彼は貧乏というだけで金持ち3人組から虐められていてね。
「おい、少ねぇな、こんだけしか持ってねぇのかよ」
3人の中心の金髪の男がそう言って男の財布を後ろのフードを被った取り巻きに投げ渡した。
「や、やめてよ。それが無くなったら今月の食費が」
そうやっていつもみたいに財布を取り上げられそうになった時、彼女が現れた。
「ちょっと! あんた達、何やってんのよ!」
「んだ? このあま、どうします? こいつも一緒に締めますか?」
もう1人の取り巻きである茶髪の男がそう言って彼女にガンを飛ばした。
「待て、この俺に歯向かってくるなんて、面白い女じゃないか」
3人組の右後ろの取り巻きがそう声を荒げるのを中心の海と呼ばれた男が止めた。
「は? 何意味分かんない事言ってんのよ。ほら行きましょ?」
「おいこら! どこ行きやがる!」
そう言って彼女は取り巻きの言葉何か無視して男の手を取って走り出した。
「こんだけ逃げれば大丈夫でしょ。ほらあんたもシャキッとしなさい。男の子でしょ?」
そう言って男の背中をポンっと叩いて彼女はニコッと笑った。
「それが男にとって最初の恋だった」
「なぁ、いつまでこんな話聞かせるんだ?」
俺は話を聞かされながらもどうにか外へコンタクトを取る方法を考えていたが、この男、無駄に話し上手でふと気がつくと話に聞き入りそうで、中々外へ出る方法を探れていなかった。
「いつまで、そうだな……僕が2人を監禁した罪で警察に捕まるまで、かな」
「捕まるまでって一体いつになるんだよ!」
「さぁ、続きを話すよ」
青園父は俺の叫びを無視してまた淡々と話し始めた。
男が初恋に浸ってるうちに気がついたら彼女はどこかへもう行ってしまっててね、連絡先はおろか学年や名前すら知れなかったんだ。初めの頃は男も彼女を探したりしていたんだが、多忙なバイト漬けの日々ですっかり彼女に対する気持ちも忘れかけていた高校3年の春。
そこで男に奇跡が起こった。
クラスに入ると、あの時の彼女が居るでは無いか。
遂に会えた。そう思って早速話しかけようと思ったが、男は貧乏で人見知り、彼女はクラスの中心人物。男を含めたほとんどの男は彼女に話しかける度胸なんて存在しなかった。
しかし、そんな空気を意にも介さず話しかけに行った男がいた。
「よぉ、1年ぶりか?」
「ウゲッあんたあの時の金持ち坊主」
「坊主とは何だ、同い年だろ?」
「それより何の用? 私はあんたに興味無いんだけど」
「そう釣れない事言うなよ、これでもお前を気に入ってるんだぜ? な、まずは一緒に帰るとかで良いからさ」
「あーもー鬱陶しいなぁ……あっ!」
そこで彼女は何かを探すように教室を見回し、隅っこで小さくなっている男を見つけた。
「君あの時の子でしょ、私今日こいつと帰るから!」
「「はぁ!?」」
この時だけは金持ちの彼と息がぴったり合っていた。
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