不時着キキョウ便 8
「ふえ? ちょっと、どうゆう事? もう!」
俺は狼狽える青園の手を握って、父親が住む家へと無言で歩き出した。
「ここだな」
「うん」
紙に書かれた住所には真っ白な一軒家が俺達の気持ちなんて何とも思わない様に悠々と建っていた。
俺は一度深く深呼吸をして、インターホンを鳴らした。
無機質なチャイムが鳴り、暫くの沈黙の後、低い男の声で『はい』と返事が返ってきた。
「お久しぶりです、鬼灯です。青園の件でお話があります。入れて頂けますか?」
俺は話そうとする青園の口を塞いで口を開いた。
『鬼灯君? 懐かしいねぇ。鍵は開いてるから勝手に入っちゃって』
「では、是非そうさせて頂きます」
俺は額にかいた汗を拭うと、青園に振り返った。
「青園、行けるか? にしてもあんな手紙を送るとは思えねぇ程優しそうな声してんな」
俺はインターホンに気を使いながら、バレないよう小声で話しかけた。
「いつもそうなの、離婚の時だって、何だかんだ捕まんなかったし、いくら通報しても警察すら丸め込んじゃうの」
「ったく、分かっては居たが、とんだクソ野郎だな」
俺達は玄関を開けて青園父の家へと足を踏み入れた。
「やぁ、いらっしゃい鬼灯くん。リビングはこっちだよ」
声のする部屋の扉を開けると、奥のソファには青園と同じ真っ青な髪の男性が優雅にコーヒーを飲んで腰掛けていた。
「お久しぶりです」
「いやー大きくなったねぇ、僕が離婚してからもう10年以上も経ったんだもんね、そりゃあ変わるか」
「そちらはお元気に過ごしていましたか? 随分と生活感の無い部屋に住んでいる様ですが」
「そうかな? 別に普通だと思うけどねぇ。まぁそんな事は良い、そんな所に立ってないで早く入ってきて座りなさい。2人とも」
「……気付いていたんですか」
「僕を騙すなんて100年早いよ」
コーヒーをコトンと机に置き、怖いくらい人の良さそうな笑顔でこちらに向いた。
「じゃあ、もう隠す意味は無いですね」
俺は青園の肩に触れて2人リビングの中へ一歩入った。
「朝顔も、大きくなったねぇ」
「悪いが、こっちは歓談しにきた訳じゃ無いんだ」
「ん? 朝顔を連れて来てくれたんじゃないのかい?」
「んな訳無いだろ、青園にしてるストーカー行為を辞めるよう言いに来たんだよ。つーか何で家の住所知ってるんだよ」
「……因みにもし、嫌だと言ったら?」
先程までの笑顔が一瞬で消え、鋭く冷たい目が品定めをするようにこちらを見つめていた。
「そん時はこれを警察に届けるだけさ」
そう言い、俺はさっき青園から受け取った封筒をカバンから取り出した。
「それは、一体何だい?」
一瞬目を少し大きく開いたかと思ったのだが、また凍えるような目へと戻ってしまった。
「何って、あんたが青園に送った怪文書だろうが」
「うーん、それを僕が送ったって証拠はあるのかな? どうやら切手も消印も無いようだけど、もしかして、君たちが僕に罪を着せようと自作した物なのかな?」
「なっ! てめぇ!」
やっぱりこいつ体に教えるしかねぇ!
俺が前に進もうとした時、服をギュッと後ろに引っ張られた。
「木那乃! なるべく穏便に、ね?」
「……悪い」
「さすが僕の娘、冷静だね」
「んじゃ、俺らはこれからこの怪文書を警察に届ける。お前は捕まる恐怖に怯えてるんだな」
「いやーそれは怖いなぁ」
明らかに心の入ってないヘラヘラとした言い方にまたイラッと来るが、無視して玄関へ向かう。
「ん?」
俺は玄関の扉を開けようと何度もドアノブをガチャガチャと左右に回すも一向に開かない。
「あいつ、自分ごと閉じ込めやがった!」
「おや警察に行くんで無かったのかな?」
リビングに戻ると奴は嘲るようにそう呟いて優雅にコーヒーを口に持っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます