鬼灯の花が枯れる前に 2
「受付こちらでお願いしまーす!」
スタッフルームから受付の町田さんを覗くと沢山のお客様が受付に並んでいた。
今日は式本番。なのに私の頭は全く別の事で一杯だった。
「本日はよろしくお願い致します」
私はスタッフルームから新婦の化粧室へ行き、あくまで何でも無いように新婦に挨拶した。
「あ! もしかして貴女が青園さん?」
「そうですが……」
「あー! やっぱり! 聞いてた通りとっても綺麗な青髪ね」
ショートボブの茶髪をふわっと揺らして私の手をぎゅっと握った。
「あ、ありがとうございます」
「錨君と高校一緒だったんだよね」
「っはい。そうですが」
「ねぇ、その頃の錨君って、どんな感じだった?」
「どんな……そうですね、少しそそっかしくて落ち着きが無かったですが、誰にでも優しくとても、良い人でしたよ」
「うっわぁ! やっぱり全っ然変わってない! 流石私の夫ね」
その楽しそうな顔と声に張っていた糸がすうっと緩まるのが分かった。
「いやーにしても青園さんが私の担当で良かった。錨君が前の高校の話する時いっつも青園さん出てたんだから。すっごく優しくて、細かいとこまで気を配れる凄い人だって。だから今日も安心して任せられそうだなって2人で話してたの!」
……意外だった。てっきりもう忘れてるか気難しい変人だと思われてるとばっかり。
「だから今日は絶対最高の思い出になると思ってるの!」
そうだった。彼女に、2人にとって今日は人生で一回有るか無いかの大舞台。なのに私ったら自分の事ばっかり。
こんな大切な事、忘れてたなんてね。
バチィン!
「わっ! どうしたの? 急に」
「いえ、何でもございません。本日は目一杯の幸せをご堪能下さい」
これでもう目が覚めた。
この式場に来て頂いたお客様全員を笑顔にする。それが私達の仕事だ。
そういえば、彼の方には木那乃が行ったが……大丈夫だろうか。まぁ木那乃の事だしいつも通り上手くやってくれる……かな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます