鬼灯の花が枯れる前に
ブライダルフェアが終わって数日。私と木那乃は朝から言い争っていた。
「だから、要らないって! 材料費は貰ったでしょ?」
「でも! ここのお礼だってまだだしせめて少しだけでも」
「だーめ! って町田さん、何してるの? ほら入ってきなさい」
私の手を押し返しながら、扉の隙間から覗き込んでいた町田をスタッフルームの中へ引き込んだ。
「えっと、何してたんですか?」
「木那乃が給料を受け取らないの」
「受け取らないって……材料費だけで良いって事で最初に折り合い着いたでしょ? このくだりもう何回目?」
「それは……! 木那乃が無料で描くって言うから仕方なく」
「もう、町田さんが来たってのにまだ続けるの?」
「もう、強情なんだから」
私はしぶしぶ机に封筒を閉まった。
「ついに明日ね……」
今日は式の前日。予行練習も終わり、諸々の事務作業は残ってるが、ほとんど明日を待つのみだ。
「チャペルの最終確認行くけど、2人とも来る?」
「あっ、私やらなきゃいけない事まだ残ってるので、2人で行ってきてください!」
そう言って町田さんは開けちゃダメ! と書かれた札の掛かった個室に入ってしまった。
「……じゃあ行きましょうか。青園ちゃん」
「えぇ」
差し出された手を取って、2人チャペルに向かった。
チャペルの中は何度見てもやっぱり綺麗で夕焼けのまま時が止まったみたいに動かない。
「綺麗ね」
「少しは元気出た?」
「……えぇ、お陰で頑張れそう。やっぱり木那乃の絵は元気と勇気を与える特効薬ね」
「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない」
「そうだ、明日式終わったらちょっと出掛けるから片付けお願いしても大丈夫?」
「えぇ大丈夫だけれど、何処行くの? 良かったら送ってくわよ?」
「この前言ってたお父さんのところ。会うのはすっごく久しぶりだけどね。この前来た手紙に住所書いてあったからさ」
「そう、ならしょうがないわね、家族水入らずで楽しんできなさい」
「うん、ありがとう」
私達の話が終わっても夕焼けは変わらず私達を照らしたままだった。
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