ヤドリギは芽を伸ばす 6
席を立ち凛然と厨房へ歩いていく青園。
静かな通路を黙々と歩き厨房の扉を開けた。
「中城さん、注文です。カミナリというお店のコロッケパンをお願いしま———」
そこまで言うと青園は、ピンと張った糸が切れた様にふらっと倒れた。
「お疲れさん」
「すみません、ここ数年の気負いが解けて、安心というか何というか」
地面に落ちる体を途中で抱くように受け止めた中城は青園の体を椅子に優しく座らせ静かに調理場へ向かった。
その調理風景はタイムラプスのように素早く、全ての作業が粗雑な性格に相反して包丁の一振り、具材1つ1つの大きさまで全てにおいて異常なまでに正確だった。
数分ほど、調理の音のみが厨房に響き、肉と油の匂いが充満した頃、クローシュで覆った白い皿を持って中城は調理場から出てきた。
「んじゃあんたはそこで座って待ってな」
「いえ、着いていきます」
慌てて立とうとしたが、片手で椅子に押し戻されてしまった。
「倒れかけた奴が何言ってんだい。ほら四葉行くよ」
「? わかった!」
そう言って中城は片手で青園にタオルをかけて、エントランスへ足音を力強く響かせながら向かった。
「ったくなんだい陰険としてるねぇ」
厨房からエントランスにやって来た中城は、予想以上いや、予想通りにピリピリした空気に思わず苦笑をこぼした。
「気持ちは分かるが一旦落ち着きな、ほら注文の品だよ」
3人の間の机にお皿を置いて、クローシュを持ち上げた。
今回作ったのはオレンジの紙が下に敷かれ、丸いバンズにマリトッツォの様に大ぶりのコロッケと大量のキャベツがぎっしり詰まったコロッケパンだ。
「これは、まさか本当に?」
「四葉、紙皿置いてくれるかい?」
「うん!」
中城に呼ばれた四葉は拙い足取りで、1枚1枚丁寧に紙皿を3人の前に置いていった。
「ほれ、食べな」
コロッケパンを置いて、立ったままじっと待つ。
「じゃあ、いただきます」
川波は紙皿の上の見た目はカミナリのコロッケパンそっくりなそれにかぶりついた。
「!」
周りの人にまでざくざくと聞こえる程にカラッと揚がった衣に、口から溢れそうな肉汁、くどい油を消し去る様に後味をさっぱりとさせる程よい酸味は、まさしくあの時食べたカミナリのコロッケパンそのものだった。
「まさか、また食べられるなんてな」
川波は静かにそう言うと、町田を真っ直ぐと見て言った。
「では、約束通りここで開かせて貰いたい。この食事にあの深海のチャペル。両方共素晴らしかった。何よりあの青園が開いた式場だ。きっと良い式になる事を期待してるよ」
「分かりました。では、こちらの書類にサインをお願いします」
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