第9話 トモコの骨折

 トモコは確かに基礎的な身体能力は技術をねじ伏せるほど強いのだが、肝臓や腎臓、それに免疫系も弱いそうで喉もとを痛そうに庇っているのがちょくちょく見かけられるそうだ。


「骨折ですね。骨の結合を早めるサポーターになります。回数を重ねていますのでご存知かと思いますが、拒絶反応で熱が出る可能性がありますので熱が出た際は連絡してください。」


医師はあらかたの慣れた説明をした後にサポーターの製造元に電話をかける。


「ああ、吉塚だがちゃんとハリガネ交換できたか。抜いておかないと腐るからな」


製造会社の吉塚は医師の返答に形式的な安堵を感じたが、トモコの引退時期を大まかに考えていた。


「異常が起こりにくいように免疫系を簡略化して設計したが、骨折と調整の回数が増えてきたな。顔が老ける前ならタレントでもなんでもやらせればなんとかなるだろう。


筋肉、とくに速筋の補助はハリガネの得意だが、骨が回数に耐えきれんのは欠点だね。まぁ、ともかく君のところは骨折をマスコミに嗅ぎつけられないようにしてくれ。」


このとき吉塚の脳ミソにあったのはトモコの全盛期の終了が極端に先ではないこと、タレントへの転用、新しい選手への乗り換えであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る