デザイナーズベイビーvs地下格闘家

@314imoYaro

第1話 人権論

 人権とは、人々が生まれながらにして持っている侵されることのない権利である。また、現代では人間らしく生きる権利が社会権として保障されている。

 そして、人権思想に取り憑かれた未来からの亡霊が科学者としてやって来た。


「今日はベンチャー企業の株式会社ショージューのエンジニアの吉塚さんにインタビューしていきたいと思います。」


ワイドショーの質問に応じる初老の科学者兼エンジニアの吉塚はにこやかな会釈をすると商品の説明をし始めた。


「この針金のような物はいったい何ですか」


「この針金を脚に刺してやれば、まだ走れはしないですが半身不随でも歩くことが出来るんですよ。これ以外にもリハビリの補助用として使用されたりしますね」


これからもインタビュアーの質問は長く続いた。もっともよく見かける当たり障りのない質問ではあったが淡々と答えていった中で、異質な点が見受けられた。


「吉塚さんは昔、人権問題の啓発セミナーによく参加していたそうですね。」


「ええ、飽きてしまいましたが参加していましたよ。」


「飽きた、とは一体どういうことですか?」


「私は生まれつき足が悪くてね、みんな走れるのに何で走れないんだって不満があったのですよ。


私は不満で仕方なかったんですよ、スポーツ選手になる機会がなかったのですから。


そんなコンプレックスがあって人権というものを成立過程から知ってからは熱中しましたよ。で、マルクスとかヘーゲルとか読んで自分のセクトとか」


「あの、すみませんがセミナーについてもう少しお話ししていただけませんでしょうか」


インタビュアーは本筋に戻そうと焦りを見せた。焦りの中にはいままで無機質に淡々と話していた吉塚が突沸のように急激な態度の変化をしたからという理由が少なからず入っていたのは言うまでもない。


話を折られて不満そうな顔をした吉塚はあるべき話に戻る。


「人権セミナーっていうのは、結局のところ技術を信じない。よく考えておくれよ、私みたいな人間が大昔に生きていたら適当な川か何かに捨てられていたはずだよ。


しかし、現代ではそうはならない。技術によって余裕が生まれて、人類は社会は進化して足が動かなくとも食えるようになったんだ。


だが、人権セミナーっていうのが言っていることは道徳をこねくり回した曲芸師なんだよ。


なぜ車椅子の俺を、あゝ失礼。なぜ車椅子の私を助ける人が必要だと言うか、なぜもっと良い車椅子が必要とは誰も言わないんだ。


私は虫の居所が悪くてね。飽きちゃいましたよ。で、それがこの針金を作ったワケです」

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