恋は雨上がりのひなたのように

 六月になった。

 風を切るように雨粒が学校の窓を打ち、校庭の土は泥の川のように流れ、学校の片隅に植えられている桜の枝葉は水の重みで垂れ下がっていた。

 しかし、高校二年生の青年の恋心は濡れも湿りもしていたなかった。

 青年はルンルン気分で音楽室に向かう。

 音楽室では少女がゆったりとピアノを弾いていた。

 ベートーヴェンの『悲愴』だった。

「ずーと雨。太陽の暖かさがこいしいわ。まさに悲愴的ね」

 青年は濡れそぼった花のようにピアノを弾く彼女を見て、どうにかして元気づけたいと思った。

 青年はピアノを回り込み、彼女の頬にキスをした。

 彼女は頬を赤くして彼を見上げる。

「ほら、君の顔に太陽が昇った」

 青年は花が咲くように彼女に微笑んだ

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